似顔絵塾は毎週見開き2ページ。選評付きで掲載される「入選」は5点。明確な選考基準はない。掲載される作品の方向性は見事にバラバラだ。応募者は、めでたく掲載された作品と山藤氏の選評から何が良かったのかを分析する。そして、掲載されなかった場合(そっちの方が圧倒的に多い)は、勝手に反省して、違うチャレンジをする。そんな繰り返しによって、添削されているわけではないのに、自分の強みが強化され、自分のジャッジに自信が持てるようになっていく。
後者の「自分のジャッジに自信が持てる」というのが重要で、私は今も編集者から「似ていない」と言われると修正はするものの、心の中では「センスのないやつ…」と思っている。言われるままに直すのでは、次のチャレンジにつながらない。正面顔で担当者に響かないなら、横顔で、という精神だ。
で、日本の建築雑誌は、発行頻度こそ週刊ではないが、全く同じ機能を持っているのではないかと私は思うのである。
紙でなくてもWEBでやればいいじゃんと思われるかもしれない。だが、似顔絵塾だってWEBだったらあんなに力が入らない。
WEBというのは「数」に縛りがかけづらい。いいものならば、何でも載せたくなる。それだと、「中学生の割にうまいから載せよう」ということになる。それは、決してその中学生のためにはならない。私はいまだに初入選の桃井かおりを超えられないので、似顔絵を描き続けているのである。
同様に「若手建築家にしてはうまい」という判断は、載せる数が限られる紙メディアがやるべきことではない。編集者は「住吉の長屋」以前の安藤作品に厳しかった当時の名編集者たちに学ばなければいけない。
すごい話になってきたが、つまり日本の建築関係者はもっと建築専門雑誌を買わなければいけない、ということである。自分でWEBマガジンをやっていながらなんだが、建築メディアがWEBだけになったら日本の建築界は危うい。プリツカー賞を多数輩出し、世界における日本建築界の優位性を培ってきたのは、「無色」な日本の建築メディア群であることは間違いない。そんな記事を前職時代にも載せたことがあるので参考まで。
日本人建築家の優位性って何? 海外から見た日本ブランド(日経クロステック2019.05.23)
本当はこの記事の締めに思い出の桃井かおりの似顔絵を掲載したい(自慢したい)のだが、私の実家が30年ほど前に火事になり、スラップブックが焼失した。その傑作は私の記憶の中にしかない。
なので、難しい横顔似顔絵の例として、磯崎新氏を代わりに掲載する。誰か、似顔絵塾の桃井かおり掲載号(おそらく1982年の週刊朝日)を持っていたら譲ってください! 意外にそれほどでもなかったらショックだけど。
◎本稿は、建築ネットマガジン「BUNGA NET」に2023年1月22日に掲載された記事を転載したものです。