2カ月前、世界中で注目を集めたカタールワールドカップにおいて、サッカー日本代表はクロアチアにPK戦の末に敗れた。グループリーグでドイツ、スペインを破り、初のベスト8への期待値はかつてないほど高まっている――そんな中での敗戦に、健闘をたたえる声、敗戦を批判する声(特にそれはPKのキッカーの決め方について)がうずまいた。
では、結局なぜ日本は「ドイツとスペイン」に勝つことができ、なぜ「ベスト8に行けなかった」のか? この大会を次のワールドカップに、日本のサッカーの未来にどう生かすのか?
この2カ月でそれは十分に議論されたのだろうか?
日本サッカー界には「検証が不足している」。繰り返されてきた歴史だ。
この疑問にこたえるべく、コンテンツプラットフォーム「SYNCHRONOUS(シンクロナス)」にて、現役でプレーをし3度のワールドカップを経験した岡崎慎司(シント=トロイデン)と酒井高徳(ヴィッセル神戸)、そして現地で取材を続けたサッカーライターのミムラユウスケの三人が徹底的に語り合った。
その一部を、ミムラユウスケ氏が紹介する。
戦前に予想していた「ドイツに勝つ」可能性
海外で行なわれたW杯で決勝トーナメントに進出した喜び、グループリーグ敗退の悔しさ。
その両方を経験した者にしかわからないことがある。
現役の選手にしかわからないことも、ある。
ただ「(まだ)現役だから語りづらいことがある」という理由で、そういう立場の選手たちが口を開くのをためらうケースは多い。
そんななか、日本サッカーをけん引し、代表としても3度のW杯(※)を経験した岡崎慎司と酒井高徳は「自分たちが感じたことや考えたことを発信することによって、日本がW杯でベスト8の壁を超えるための議論が活性化され、日本の役に立つならば……」と、カタールW杯の前から、忖度することなく、ときに熱っぽく自身の経験を踏まえた日本サッカーの未来を語ってきた。
例えば「悲観的な展望」が多かったカタールW杯について、ドイツやスペインでプレーした経験のある2人は、対戦相手との力関係を冷静に分析したうえで「日本の決勝トーナメント進出の可能性」が十分にあると予想していた。
果たして、実際にそのとおりの結果となった。
そんな2人はカタールW杯をどう見たのか。
大会後に、日本代表の課題と進むべき道について改めて総括した。日本代表やヨーロッパでプレーすることの意義や大変さ、そして、W杯で見える景色について。
すべてを知っている2人だからこそ語れる話がここにあった。
(※)南アフリカW杯に酒井高徳選手は補欠メンバーとして帯同
日本が得意な「共通意識」を作った
酒井は言った。
「ドイツは予想していたとおりの隙を日本に与えてくれた」
その理由はこうだ。
「岡崎(慎司)さんと、W杯前の(UEFA)ネーションズリーグなどでドイツがどのような戦いをしていたのかを話していました。ドイツは自陣に引き込んでしまえれば、逆に、“怖くなくなる”(傾向があった)んですよ。
だから、0対0のままで長い時間進むか、ドイツを自陣に引き込んだ(あえて攻めさせた)うえで日本がカウンターを仕かけるような形になれば勝てるのではないかと考えていたんですが、まさにその形で得点できました。
全体的に見ると狙い通りの形で日本が勝ったのかなと」
一方、岡崎はスペインやドイツという優勝経験のある2カ国と同じグループに入った“メリット”を感じていた。
「選手ならみんなわかる感覚だと思うのですが、(プレーするときに)『しっかりパスを繋ごう』とか、『どんどん前へ出て行こう』と、それぞれの考えがバラバラになってしまう状況がもっとも難しいんです。
逆に、(チームとして、どのように戦うべきかという)迷いを捨てて、共通意識を一つにすると楽になります。(W杯で優勝経験のあるチームが2カ国も同じグループにいた)今大会の日本代表の戦い方は、ある意味で、(引き込んで守るという)迷いのない戦い方ができたと思うんです」
目標のベスト8には届かなかったものの、ドイツとスペインを破り、グループリーグを首位で突破した「結果」は評価されるものだろう。
ただ、課題がなかったわけではない。
今大会の日本代表はどのような課題を抱えていたのだろうか。
酒井は、決勝トーナメント1回戦で対戦したクロアチアと、多くの日本人が意識するのとは違う意味合いを持った「フィジカル」を例に、こう説明する。
「クロアチアは日本戦の次のブラジルとの試合でも、延長戦を合わせて120分を戦っていました。
なのにブラジル戦でも、彼らは(体力や運動量が)落ちていなかった。
一方の日本は、クロアチア戦の終盤には(途中出場の)フレッシュな選手以外、ほぼ、落ちていました。そこで落ちないチームがベスト4に進めるチームかと……。
だから、日本はまだ世界のトップには『フィジカル』能力で追いついていないのかなと感じました。
ここでいう『フィジカル』能力というのは、コンタクト(身体のぶつかり合い)の強さのことではなくて、スプリントや運動量の持続性みたいなもの。今後の日本が鍛えるべきは、サッカーの戦術面ではなく、そもそものフィジカルの部分なのかなと感じました」