日銀が1月末から始めたコマーシャルペーパー(CP)買い入れが、劇的な効果をもたらし始めた。企業が発行する際のCP金利は先月後半から急速に低下、ついには短期国債を下回った。効果絶大とはいえ、リスクフリーの国債よりCPの金利が低い「官民逆転劇」は、市場機能に照らすと理屈に合わない。介入が効き過ぎてしまい、局所的な「バブル」が発生したと言えよう。市場機能を最も重視する日銀が、皮肉なことにそれを破壊してしまった。
日銀が買い入れ方針を表明した昨年末以降、CPの発行金利は低下を続け、とりわけ2月後半から下げが顕著に。その頃、0.8%前後で発行されていた銘柄は3月に入ると、0.2%台前半まで急低下。11日に大手自動車メーカー系ファイナンス会社は3カ月物を0.20%で発行し、同期間の短期国債利回り(0.25%前後)を下回った。
金利が下がれば、発行企業の資金調達は楽になる。日銀のCP買い入れは、3月末決算期を控えた企業金融に大きな緩和効果をもたらしている。
この間の動きを補足すると、日本政策投資銀行のCP買い入れも金利の低下に寄与している。同行は昨年12月中旬からCP買い入れに着手。その後に日銀の買い入れが加わったため、金利低下に拍車が掛かったと見てよい。
また、市場規模の違いも無視できない。短期国債(FB含む)の残高が100兆円以上なのに対し、CP残高は十数兆円。短期国債市場は大量発行で荷もたれ感が強まる一方、CP市場は政投銀や日銀の「介入」で一気に需給が逼迫し、金利逆転劇をもたらした。
予想外のCPバブル、戸惑う日銀
官民金利の逆転。すなわち、民間企業が国家よりも低い金利で資金を調達できる状況は、市場メカニズムの観点からは合理性を欠いている。
政府には倒産リスクがないため、国債はリスクフリーの金融商品となる。だから、国債金利が金融市場では最も低いのが当然であり、倒産リスクのある民間企業債務の利回りは国債にやや上乗せされた水準になる。
CPと国債の利回り逆転を価格動向で言い換えれば、「CP価格が急騰し、国債価格を突破」になる。つまり、日銀の買い入れが市場メカニズムを壊してしまい、「CPバブルを発生させてしまった」(債券ファンドマネジャー)。
こうした金利水準の歪みが定着すると、不健全なことが起きかねない。バブルならば当然、今度は崩壊するリスクが発生する。
そのうえ、企業金融のモラルハザードを誘発する恐れがある。具体的に言うと、超低利で調達した資金を国債で運用すれば、企業は利ザヤを稼げてしまうのだ。日銀の支援に乗っかり、国から利ザヤを略奪・・・。さすがにこうした不健全な裁定行為を行う企業はないだろうが、「見えない補助金」をバラ撒く状況は解消する必要がある。
日銀にとって、官民金利逆転は予想外の事態だ。CP買い入れの検討を始めた昨年末、米リーマン・ブラザーズ破綻のショックが尾を引き、確かにCP市場は機能が麻痺していた。市場では「資金調達不能で破綻する企業が増えるのでは」(大手銀行)との危機感が強まり、日銀も重い腰を上げざるを得なくなった。
この時、日銀が心配したのは買い入れが奏功せず、CP購入規模の拡大を余儀なくされる展開だった。実際は逆にバブルが起こってしまい、日銀関係者も「まさか効き過ぎるとは・・・」と戸惑いを隠せない。