原子力の活用を加速させようとしている岸田首相(写真:つのだよしお/アフロ)

議論に『ふた』をすることで問題は決して解決しない。
腰が引けていると言わざるを得ない。

 原子力活用を加速させようとする国の姿勢に対し、「次世代原子力をめぐる研究会」(事務局:キヤノングローバル戦略研究所)が出した中間提言が手厳しい。「残念ながら、国は、福島第一原子力発電所事故以降、原子力の将来に関して、決意を示して国民に明確な展望を提示しているとは言えない」などと指摘し、政府に包括的なビジョンを示すことを求めている。

 この研究会、ユニークなのは座長を除くメンバー6人が全員女性だということだ。唯一の男性は、元通産官僚で、国際エネルギー機関(IEA)事務局長を歴任した田中伸男座長。この研究会と提言に込めた意義を聞いた。(聞き手:河合達郎、フリーライター)

※中間提言「日本の原子力を再生するために」(2022年10月6日公表)

原発新設に舵を切るなら満たすべき「それなりの条件」

──ロシアのウクライナ侵攻を機にエネルギー問題が顕在化しました。岸田政権は原子力活用の方針を加速させています。どう見ますか。

田中伸男氏(以下、田中):原子力を使うというのは非常に合理的なオプションでしょう。岸田総理の提案は全くその通りだと思うんですよ。

 ウクライナ危機は今後まだどうなるかわかりません。最近のプーチン大統領の発言を聞いても、「窮鼠猫を噛む」じゃないですが、核兵器を使うとも言っています。大変難しい状況に差し掛かっています。

 エネルギーに関しては、ドイツはロシアからのガス供給がもう完全になくなるという前提で考えていますね。日本も、ロシアからの天然ガスが来なくなるというシナリオも考えざるを得ないわけです。

──政権は新設にも舵を切りました。

田中:私たちの中間提言の最大のポイントはそこにあります。リプレースや新設を考えるのであれば、それはそれなりの条件が必要なんじゃないですか、ということです。

 原子力は、二酸化炭素を出さない、クリーンであるという意味では、確かに地球環境には優しい。福島の事故を経験した日本ですから、より安全に注意して進めます、というのも当然でしょう。

 ただ、それだけで「はい、どうぞ」ということになるかというと、そうではありません。福島であれだけの大きな事故を起こした日本として、国民が納得する議論っていうのはそれだけでは不十分ではないかと思うんですよ。

──「それなりの条件」とは何でしょうか。