10月3日、この日から始まった臨時国会の衆院本会議で所信表明演説をする岸田文雄首相(写真:ロイター/アフロ)

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

「信教の自由を保障する観点から宗教法人の法人格を剥奪するという極めて重い対応である解散命令の請求については、判例も踏まえて慎重に判断する必要がある」

 これは5日から7日にかけて、衆議院と参議院で行われた代表質問で、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の問題をめぐり、宗教法人法に基づく解散命令を請求すべきとする野党からの相次ぐ質問に、岸田文雄首相がひたすら繰り返した答弁だ。

 これからわかることはふたつ。ひとつは、岸田首相の認識が間違っていること。もうひとつは、統一教会を解散させる気がないことだ。ひょっとすると、統一教会からなんらかの圧力でもかかっているのかも知れない。そう勘繰られても仕方のないような内容だ。

解散命令は宗教団体にとって「死」を意味しない

 宗教法人法に基づく解散命令が出たところで、あくまで宗教法人としての解散であって、岸田首相がいうように法人格が剥奪されるだけのことだ。税制上の優遇などがなくなるだけで、任意の宗教団体としては解散の必要はない。法人として認証される以前の姿に戻るだけだ。そこでは自由に宗教活動が続けられる。信教の自由は保障される。

 宗教法人法の第81条にはこうある。

<裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる>

 その第1項第1号。

<法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと>

 これを理由に、政府が主体となって解散請求をするべきという声が多い。

 しかし、これはあくまで法人としての解散であって、任意団体としての存続まで規制するものではない。そうすることで、憲法で保障された信教の自由まで踏み込まない仕組みになっている。