ヘッドマウントディスプレイなどVRのデバイス環境の整備が進めば、メタバースはより社会に浸透していくはずだ(写真:AP/アフロ)

 ビジネスや経済のあり方を根底から覆すテクノロジーとして、大きな注目を集めている「メタバース」。新たな世界が創造されたとも言える破壊的イノベーションの前に、世界のトップ企業が躍起となって争いを繰り広げている。

 果たしてメタバースは楽園かディストピアか、ただの現実逃避か、あるいは人類のフロンティアか。インターネット世界を「触れる」ようになった今、生活・ビジネス・人生はどのように変わっていくのだろうか──。『メタバースビジネス覇権戦争』を上梓した、ITジャーナリストの新清士氏に話を聞いた。(聞き手:陳 辰、シード・プランニング研究員)

今も60万の月間アクセス数を誇る「セカンドライフ」

──新さんが考える「メタバース」の定義とは何でしょうか。また、どのような経緯でメタバースに多様性が生まれたと考えますか。

新 清士氏(以下、新氏):包括的なメタバースの定義は、「生活空間として成り立つものであり、さらにそれがインターネットを介して広がっていくもの」だと考えています。

 本書でも述べているのですが、メタバースはずっとゲームなどを筆頭とした“遊び”の分野がけん引していました。そこに、ソーシャルネットワークなどの“生活”、そしてデジタル関連の“仕事”、この3要素が重なることで、ある程度の生活空間が成り立つのです。

 1970年代から80年代にかけて、MUD(マルチユーザーダンジョン)と呼ばれるテキストチャットベースのオンラインゲームが人気になりました。これが発展して、テキストの部屋の中にモノを置いたり整えたりできるなど、ユーザーがデータを追加できるようになりました。

 そうすると、単なるゲームだったものにコミュニティ性が生まれてきます。これを3Dのグラフィカルな形で具現化したものが、「セカンドライフ」という仮想世界でした。

 セカンドライフは2008年頃にピークを迎え、その後は勢いを失っていくのですが、現在も月間アクセス数は60万人にのぼり、意外と非常に大きなコミュニティを形成しており、利益を生み出し続けているようです。

 さらに、セカンドライフの中では、バーチャル内だけれど恋愛をする、婚姻するという人も一般的に現れています。現実世界での接触がなくても、恋愛のような関係性が仮想世界に没入感を与え、これが多様性へとつながっていきました。

 メタバースの黎明期から、「仮想世界の中の人間たちがある程度コミュニケーションが取れて、さらにソーシャルな関係を結べるかどうか」というのは一つのテーマとして続いています。でも、今はまだ、VRを使用したメタバースではHMD(ヘッドマウントディスプレイ)などのデバイス環境の整備が追い付いていない。

 ただ、今後は改善されていくはずですし、メタバースをマクロ的な人間のコミュニケーションと捉えた場合、仮想空間での生活は何も違和感のないものとして受け入れられていくだろうと思います。

──メタバース内の恋愛について教えてください。