戦闘終結の糸口はなかなか見いだせない。写真はロシアのミサイルで攻撃を受けたウクライナ南部のオデーサ港(写真提供:Press service of the Joint Forces of the South Defence/ロイター/アフロ)


ロシアがウクライナに侵攻し5カ月が経過した。今回の軍事衝突の裏で、米国の保守系シンクタンク、ランド研究所の報告書が米政権の戦略に影響を与えたと指摘する声がある。だが、事態がここに至ったのは米欧の戦略ミスである。ランド研究所の提言を読み解いてみよう。

(杉山 大志:キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

敵を「拡張」させて疲弊させる

「今般のウクライナでの戦争は、ランド研究所の報告書に基づき、米国がロシア弱体化を狙って仕掛けたもので、台湾においても同様な戦略を取って中国をけしかけ弱体化を図る可能性がある」という言説がある。ネット上で容易に記事がいくつか見つかるが、1つだけリンクを張っておこう(https://www.businessinsider.jp/post-256170)

 ここで引き合いに出されているのが米ランド研究所の2019年の報告書「ロシアを拡張する:有利な条件での競争、Extending Russia: Competing from Advantageous Ground」である。

 けれども、よく報告書を読むと、そうは言っていない。以下、説明しよう。

 この報告書は、ロシアとの国家間の競争は避けられないと認識したうえで、米国が有利になるような領域を探索したものだ。

 検討されたのは、ロシアの軍事、経済、政治的な力を弱体化しうる軍事・非軍事の両面の手段である。

 そこでは、米国が優位に立つ領域や地域でロシアが競争するように仕向け、ロシアに軍事的・経済的な過剰な「拡張」を促し、国内外での政権の威信と影響力を失わせるなどの作戦だ。

 敵を「拡張」させて疲弊させるという手段は古来多く用いられてきた。