米ドルがあらゆる通貨に対して一人勝ちの状態となっている。圧倒的なドル高によって、各国経済に大きな影響が及ぶ可能性が高まっている。(加谷 珪一:経済評論家)
市場から消えるドル資金
このところ為替相場では円安ドル高が続いているが、ドルは円に対してだけ強くなっているわけではない。ドルはユーロなど他の通貨に対しても高く推移しており、ユーロドル市場は、一時、両通貨の交換比率が1を下回る「パリティ割れ」と呼ばれる状況になった。これは約20年ぶりの出来事である。
米ドルの価値が上がっているのは、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が金融正常化を急ピッチで進めており、金利の上昇とマネーの収縮が進んでいるからである。
米国をはじめとする世界の中央銀行は、リーマンショックに対応するため市場から国債を買い入れ、大量のマネーを供給する量的緩和策を続けてきた。この政策によって米国経済はリーマンショックから回復し、成長軌道に乗ったものの、近年は物価上昇が顕著となっていた。こうしたところに原油価格の高騰やウクライナ情勢などが影響し、昨年(2021年)後半からはインフレが急加速。米国政府とFRBにとってインフレ抑制は目下、最優先の課題となっている。