国連が機能不全に陥っている

1.ルールに基づく国際秩序形成の限界

 本年(2022)5月、ジョー・バイデン大統領の初訪日に際して、日米首脳共同声明が発表された。

 両首脳はその中で「ルールに基づく国際秩序」を重視する姿勢を強調した。

 しかし、近年のグローバル社会の重要課題を振り返ると、ルールがあっても国家間で合意が成立せず、国際秩序形成のために必要な施策を実施できないケースが目立つ。

 例えば、ロシア軍のウクライナ市民に対する非人道的攻撃に対して、安保理常任理事国のロシアが拒否権を発動したため国連の非難決議が出せなかった。

 コロナ感染の急拡大に際しては、米中対立を背景に国連の世界保健機関(WHO)が機能せず、感染拡大防止に効果的な国際協力体制を構築できなかった。

 既存のルールがうまく機能しなくなった世界貿易機関(WTO)や北大西洋条約機構(NATO)などにおいてルールを改正しようとしても、代替案として提示されたルールに関する合意形成ができず、改革が先送りされているケースも少なくない。

 国連、G20、G7、WTO、EUなどは、国家間合意形成の難しさを背景にいずれも機能不全に陥っている。

 以前はそうした国家間対立が先鋭化した場合には、米国がリーダーシップを発揮し、合意形成を促進してきた。

 しかし、ドナルド・トランプ政権が「アメリカ・ファースト」という自国利益優先の大方針を掲げたため、米国のリーダーシップが大幅に低下した。

 それとともに、国際的なルール形成が一段と難しくなりグローバル社会は不安定化している。

 以上から明らかなように、世界が多極化に向かう中、国家間の合意に基づくルールに依存するこれまでの世界秩序形成は限界に来ている。

 その主因は、イデオロギーや価値観が異なる国家間での合意形成が困難なため、問題解決のために有効なルールを決めることができないことにある。