ドイツ連銀のナーゲル総裁(写真:ロイター/アフロ)

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

 ドイツがまたヨーロッパの足並みを乱そうとしている。

 欧州中央銀行(ECB)は6月9日の定例理事会で、異例となる事前の利上げ通告を行った。具体的には、7月21日に開催される定例の次回理事会で0.25%の利上げを実施し、さらに9月8日に予定される次々回の理事会で0.50%超の追加利上げを行うというものである。

 この発言を受けて、イタリアやスペインなど重債務国の金利の上昇に拍車がかかった。この状況に鑑み、ECBは臨時の理事会を開催し、重債務国の国債購入に関するルールを弾力化すると決定した。具体的には、3月に打ち切ったPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)における償還資金の再投資に際して、重債務国の国債を手厚く購入する道を拓いたわけだ。

 この決定について、理事会メンバーであるドイツ連銀のヨアヒム・ナーゲル氏が異議を唱えたと、複数のメディアが報じている。ECBは金融の安定ではなく、物価の安定に注力すべきだというのがナーゲル・ドイツ連銀総裁の主張であるようだ。ドイツ連銀に伝統的な「インフレファイター」としての姿勢が色濃く反映されている。

 前任のイエンス・バイトマン氏も、ECBによる国債購入には否定的な立場を貫いてきた。

 ドイツの考え方は、「ユーロ圏の金融安定化はドイツの金融安定化につながるものだが、中銀の本来の責務は物価の安定にあり、金融の安定は行政が司るべきであるという原則をドイツ連銀は重視する」というものだ。とはいえ、この主張はECBが抱える現実を直視していない。