さらには、大和証券の末広徹氏の試算によれば、2012年を基準とすると、2022年4月には、物価は公表値の6.6%を超える15.4%も上昇しているのに、実質賃金のほうは公表値の5.6%以上の11.0%も下落しているのである。
庶民の生活がいかに苦しくなっているかを示すデータである。しかも、戦争とコロナ、そして円安がそれに追い打ちをかけている。
黒田総裁の家計発言が不適切だとしても、金融緩和政策を解除できるような状況にはないこともまた確かである。したがって、内外の金利差は広がる一方であり、円安は続かざるをえない。
問題は、私が国会で速水総裁を追及してから21年も経つのに、日本経済がデフレ状況から脱却できていないことである。金融の量的緩和策が間違っているわけではないが、それだけでは目標に到達できないのである。
単純化して言えば、市中に青天井でマネーを流しても、それを活用する企業がいなければ効果は上がらないからだ。
生産性の低下
過去25年間にわたって日本経済がデフレから脱却できないのは、企業の生産性が上がっていないからである。日本の労働生産性はG7で最低である。
日本生産性本部の『労働生産性の国際比較2021』によると、日本の(1)時間当たり労働生産性は49.5ドルで、OECD加盟38カ国中23位、(2)一人当たり労働生産性は78,655ドルで、OECD加盟38カ国中28位、(3)製造業の労働生産性は95,852ドルで、OECD主要31加盟国中18位である。
長時間労働しながら、非効率で成果が上がらない職場が多すぎる。トップが決断する前に社内のコンセンサス形成などで時間がかかりすぎること、IT化が遅れていること、旧来の年功序列賃金・終身雇用の仕組みがまだ変わっていないこと、スタートアップ企業への支援が足りないことなど数々の理由が考えられる。
リモートワーク、IT化など、コロナ感染の拡大によって余儀なく進んだ分野もあるが、他の先進国に比べて、まだ遅れている。政府も「働き方改革」などを推進しているが、民間の創意工夫が不可欠である。
以上に列挙した理由以外にも、生産性を下げている理由は多々あるであろう。教育の分野もそうである。その原因をまず解明することが必要である。生産性を向上させて、企業の国際競争力を強化しないかぎりは、賃上げにはつながらないからである。
スイスのビジネススクールIMDが6月15日に発表した「2022年世界競争力ランキング」によると、日本は前年から順位を3つ下げ、34位と過去最低になった。10位までの順位は、(1)デンマーク、(2)スイス、(3)シンガポール、(4)スウェーデン、(5)香港、(6)オランダ、(7)台湾、(8)フィンランド、(9)ノルウェー、(10)アメリカである。中国は17位、韓国は27位である。中国や韓国にも大きく引き離された日本の凋落ぶりを再認識させられる。
判断基準は、(1)経済状況、(2)政府の効率性、(3)ビジネスの効率性、(4)インフラであるが、デジタル化の遅れや、政府や事業の効率性の低さ、研究開発力の急低下などが低評価の理由である。
現在の円安の進行は、日本の競争力の低下に正面から向かい合う絶好の機会である。