核爆発がどれだけ深刻な被害を長期間にわたって引き起こすかを日本人は良く知っている。だからといって核を単に忌避するだけでは将来のさらなる深刻な被害を招きかねない

 戦後の日本は、核超大国・米国との同盟関係を軸に自国の安全保障を図ってきた。その象徴が「核の傘」である。

 もし日本を核攻撃すれば、背後に控える米国から核兵器で耐えられないような報復攻撃を受ける。よって、日本への核攻撃を思いとどませるという考え方である。

 その一方で、日本は、「非核三原則」「米国の核抑止力への依存」などの核に関する4つの核政策を堅持し、現在に至るまで核武装の選択を放棄してきた。

 さて、ロシアのウクライナ侵略においては、米国のジョー・バイデン大統領はプーチンの核の恫喝の前に、軍事力の行使を完全に抑止された状態となってしまった。

(詳細は拙稿『常軌を逸したプーチン、核使用に踏み切る危険性高まる』2022.3.4を参照されたい:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69116

 このことは、米国が同盟国に提供する「核の傘」の信頼性を揺るがすことになった。

 ちなみに、「核の傘」は通称で、本来は「拡大抑止」と呼ばれる。「拡大抑止」とは自国だけでなく、同盟国が核・通常攻撃を受けた際にも報復する意図を示すことで、同盟国への攻撃を他国に思いとどまらせることである。

 米国は同盟国である日本や韓国に対し、核を含む「拡大抑止」の提供を約束している。

「核の傘」については、冷戦期に旧ソ連と対峙していた米国が「パリを守るために、ニューヨークを犠牲にする覚悟があるのか」と、核による米国の報復攻撃に疑問が呈されたこともある。

 そして今、ロシア・中国・北朝鮮の核の脅威を肌で感じているわが国において、「米国は、ワシントンやニューヨークを犠牲にしても東京を守ってくれるのか」といった米国の「拡大抑止」に対する不安や不信が高まっていたところ、5月23日都内で開催された日米首脳会談で、バイデン大統領は米国が核戦力を含むあらゆる能力で日本の防衛義務を果たすことなど、両首脳は米国の拡大抑止の有効性を確認した。

 ところで、他国の核兵器の脅威に対抗するには自国が核武装することが最も単純な解決策である。

 1945年8月に広島と長崎に対して原子爆弾が使用されると、大国は核兵器開発を積極的に推進した。

 その結果、ソ連が1949年に原子爆弾の開発に成功し、その後は英国、フランス、そして中国が相次いで核兵器を保有するに至った。

 しかし、その後、核保有国はさほど増加しなかった。2022年6月現在、核兵器保有国は9か国(中国、フランス、ロシア、英国、米国、インド、パキスタン、北朝鮮およびイスラエル)である。

 しかし、人口でいえば、世界の約半数の国民が核を保有していることになる。

 このように核保有国の数が増えなかった理由の一つは、各国が、米国またはソ連(現ロシア)が提供する「拡大抑止」に依存したことが挙げられる。

 つまり、保護を受ける国は、「味方」の超大国が相手側から自国を守ってくれると確信できれば、自ら核兵器を保有せずに済ますことができたのである。

 さて、本稿では、核の脅威に対する各国の対応の相違を紹介したい。

 初めに、米国による拡大抑止に依存しながら独自の核武装を選択した英国について述べ、次に、同盟国に依存しないという独自の核戦略論に基づき独自の核武装を選択したフランスについて述べる。

 最後に、現在に至るまで核武装の選択を放棄している日本について述べる。