ロシア軍の激しい攻撃を受けるマリウポリのアゾフ・スタール(アゾフ製鉄所)(4月18日撮影、提供:Mariupol City Council/ZUMA Press/アフロ)

プロローグ/
ロシア軍、ウクライナ全面侵攻開始

 ロシア軍は2022年2月24日、満を持してウクライナ国境を越え、ベラルーシ側から首都キエフ(現キーウ)に侵攻開始。ウクライナ東部2州では全面戦闘再開。黒海側では、クリミア半島から進軍しました。

 その後の欧米側からの大規模経済制裁強化措置は当然の結果と言えましょう。

 この原稿を書いている4月21日、ロシア軍はアゾフ海沿岸のアゾフ・スタール(アゾフ製鉄所)制圧を発表。これは、同製鉄所を今後兵糧攻めにする作戦と思われ、守備隊は籠城戦を展開するでしょう。

 同製鉄所の敷地面積は東京ドーム235個分とも言われています。なぜこれほど敷地面積が大きいのでしょうか?

 実は、旧ソ連邦諸国の重工業関連施設は皆、広大な敷地の中に建設されています。理由は、周囲を包囲されても自給自足できる態勢になっているからです。

 すなわち、戦争を前提に工場が存立するとも言えましょう。

 日本の製鉄所は高炉と転炉は同じ敷地内にあることが多いですが、厚板工場や薄板工場は通常別の工場敷地になっています。

 旧ソ連邦諸国の製鉄所は高炉・転炉・厚板・薄板・製管工場などが全部一つの敷地に入っており、学校やホテル、病院、劇場などもあります。ですから、膨大な敷地面積になります。

 今回のアゾフ・スタール製鉄所はその典型と言えましょう。

 自動車工場も同様です。日本では自動車部品は協力工場から供給され、自動車工場は実質、組み立て工場です。

 旧ソ連邦諸国の自動車工場は、タイヤとガラス以外は自社工場で作っていると言われるほど、何から何まで自社工場で生産していました。

 筆者はモスクワ駐在中、国産車ジグリ(輸出名ラーダ)を製造しているサマーラ州トリアッチ市のAvtoVAZをよく訪問しました。何回行っても広すぎて工場内部の全容が分りませんでした。

 今回のロシア軍のウクライナ侵攻問題に関しては、筆者は侵攻前から「ロシアがウクライナに軍事侵攻する意味も意義も大義もない」と主張。

 結論として「ゆえにロシア軍のウクライナ侵攻はないだろう」と述べてきましたが、結果は残念ながら正反対でした。

「米側が悪い。ウクライナが悪い」という、ロシア軍のウクライナ侵攻を擁護する論調もあります。

 確かに米J.バイデン大統領やB.ゼレンスキー大統領の言動は一つの原因ではありますが、これは、相手を殴っておいて、「お前が悪い」と言っていることと同じです。

 V.プーチン大統領代行は2000年5月7日、新生ロシア連邦として2人目の大統領に就任。

 その直後、バレンツ海で北洋艦隊所属の最新鋭原潜「クルスク」沈没事故が発生して、新大統領の誇りは「クルスク」と共に沈没しました。

 露黒海艦隊旗艦「モスクワ」は2022年4月14日に沈没。「モスクワ」沈没と共に、プーチン大統領の誇りも再び沈没したと考えます。

 今、プーチン大統領の頭の中にあるもの、それは復讐心ではないでしょうか。

 しかし、「二度あることは三度ある」。プーチン大統領には、近く3度目の沈没が待っているような気がします。