インドネシア国会は4月12日、長年審議を続けてきた「性的暴力根絶法案」を可決した。
国会議員や政府部内からは「非常に画期的な法案でインドネシア人女性の人権擁護が進むことになる」と大きな評価がある一方で、「しょせん名目だけの法律で実態に即していない」との否定的な見方も根強い。
「証言だけで有罪」の可能性もありえる強力な性暴力根絶法
国会が今回可決した法案は2016年に提出され、長年審議されてきたもの。女性団体や人権組織からは当然のことながら、「法案可決」を歓迎する声が多い。
肝心の法案の中身だが、女性への非肉体的セクハラ、肉体的セクハラ、避妊手術の強制、不妊の強制、結婚の強制、性的虐待、性的搾取、性的奴隷、電子ベースの性的暴力を「性的暴力9事案」と規定し加害者を訴追できることとなっている。
これまで他の複数の法律で規定されている強姦、猥褻行為、家庭内性的暴力、性的搾取を目的とする人身売買など10項目も今回の法案でも規定されており、より広範囲の女性に対する性的暴力を一つの法律でカバーする内容となっており、弱い立場の女性への配慮がみてとれる。
さらに加害者に対しては裁判への訴追に加えて加害者自身あるいは第三者に賠償能力がない場合、国家が不足分を支払うことを明文化し、被害者救済に国家としても取り組む姿勢を示している。
ただし、法律の問題点を指摘する声もある。例えば、訴追後の裁判で「証拠が一つでもあれば、あるいは被害者や証人の証言だけでも被告を有罪に持ち込むことができる」としている点だ。この規定に従えば証言だけで有罪にできるなど、刑事裁判の根底に関わる内容を含んでいる。実際の裁判でこの法律の内容、適用を巡って論争になるのは確実とみられる。