北京の天安門広場に設置された監視カメラ(筆者撮影)

「中国に言論統制やネット検閲があること」は日本でもよく知られている。だが、具体的にどういう内容のものがどういう形で規制されるのか、にまで踏み込んだ記事はあまり目にすることがない。投稿した動画に対してどのような規制がかかり、どのように修正することで公開できたのか。中国各地を旅して中国の魅力を伝える活動をしている著者が、その具体的な顛末を紹介する。(JBpress)

 ロシアによるウクライナ侵攻直後、中国の一流大学の教授たちがロシアに反対する声明を公開したが検閲で削除された。「中国は言論統制が厳しい」、たいていの日本人が抱いている中国のイメージ通りの出来事だった。しかし、そのような「影響力のある人によるきわどい案件」は置いておくとして、中国の言論統制は、一般人に対してどのような影響を及ぼしているのか。中国においてメディアへの露出経験があり、また自身も情報発信の経験のある著者が、実際に経験した言論統制の実態について紹介する。

 周知の通り、中国にはグレート・ファイアウォール(中国名:金盾)というネット検閲システムが存在し、Google、LINE、Twitterなど中国国外の多くのサービスが使用できないように遮断されている。また、中国で閲覧できるウェブサイトやアプリなどにおいても、何らかの理由で「問題がある」と判断されたコンテンツは事前あるいは事後に削除される。

 ロシアに反対する声明が削除されたのは、まさにその一例だ。このような報道を見た著者の友人は、「そんなことまで検閲されるなんてすごいね」と驚いていた。しかし、著者が驚いたのはそのような投稿ができたこと自体だった。中国の厳しい言論統制の下では、センシティブかつ政治的な発言を公にすることは難しいからだ。

投稿した動画は「審査中」状態に

 当時ただの外国人留学生であった著者でさえ、検閲をされ情報発信を妨げられたことがある。それは、中国の動画サイトbilibili(日本の「ニコニコ動画」に似たサイト)に動画を投稿しようとしたときのことだった。

 2019年1月末、新型コロナウイルスの深刻化により武漢が突然都市封鎖され、また中国全土で厳戒態勢が敷かれていた時期だった。世の中には武漢に関する残念な報道や言動が溢れていた。ちょうど2カ月ほど前に武漢を旅していた著者にとって、その変わり果てた姿は衝撃的であり、平常時の武漢とはどのような場所なのか、それが伝えたくて「【武漢加油!!】武漢ってどんな場所なのか?」(https://www.youtube.com/watch?v=bZ7iQOV66EM&t=30s)という動画を作成した。

動画:【武漢加油!!】武漢ってどんな場所なのか?/What kind of city is Wuhan?

 動画をYouTubeやTwitterなどに公開すると、「これがあの武漢なのか!」と大きな反響があった。そして、動画に感銘を受けたという見知らぬ中国の方が、この動画を中国人にも見てほしいから翻訳させてほしいとネット上で申し出てくれたので、著者は中国の動画サイトにも公開することにした。

 著者は日英の字幕しかなかったオリジナルの動画に中国語の字幕を追加してbilibiliに投稿した。すると、bilibiliではすぐに動画を公開することはできず、「投稿审核中(審査中)」という状態になった。どうやら、bilibiliではコンテンツ公開前にスクリーニングがあるようだった。

bilibiliにおけるコンテンツ公開までのフロー。公開の前にスクリーニングがある