韓国の次期大統領となった尹錫悦氏(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 9日に投開票が行われた韓国の大統領選挙において、尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が第20代大統領に当選した。しかし、尹錫悦氏が5月10日に立ち上げる新政権の権力基盤は脆弱である。韓国の国会では60%の議員が現与党系であり、尹錫悦氏が国内で政治・経済改革を行おうとしても妨害される可能性がある。

 そうした中で、尹錫悦氏にとって比較的早期に主導力を発揮できる分野が対外関係であろう。文在寅(ムン・ジェイン)政権では、対外関係がすべて北朝鮮対応を意識して組み立てられていた。また、米韓関係においては、中国に対する気配りのあまり、米国の信頼を失っていた。日韓の間では歴史問題に執着するあまり、日本は文在寅政権を相手としなくなり、史上最悪の関係になった(文在寅外交の弊害については拙書『さまよえる韓国人』をご参照願いたい)。

米韓同盟・日韓関係の緊密化へシフト

 尹錫悦氏は、そうした対外関係の優先順位を抜本的に入れ替えようとしている。同氏は、大統領就任後最初に訪問する国として米国を挙げ、次に日本を挙げた。それは米韓同盟の強化と日韓関係を優先するというサインであろう。

 尹錫悦氏は、これまで韓国を支援してきた米・日との協力関係に回帰しようとしている。文在寅氏は運動圏・左翼圏の人物であり、中ロや北朝鮮について現実から目を背け、そうした国々に寄り添う姿勢を強く示しており、このままでは韓国がどこに向かうのかと大きな懸念を抱かざるを得なかった。筆者は仮に李在明(イ・ジェミョン)氏が政権の座に就くならば、日本は韓国との関係を放棄せざるを得ないのか、とまで考えていた。

 しかし、韓国の国民もウクライナに対するロシアの無差別攻撃、中国の人権弾圧を目の当たりにすれば、韓国にとって重要な国がどこなのか理解できるはずである。文在寅政権の対外関係を抜本的に修正することを願わざるを得ない。