(写真:AP/アフロ)

(大西康之:ジャーナリスト)

「3月24日の臨時株主総会を穏便に乗り切りたい」

 その一心で踏み切った人事だろうが、本気で会社を変える気がない「偽装」であることは明白だ。

 東芝は3月1日、綱川智社長兼最高経営責任者(CEO)と畠澤守副社長が同日付で退任し、独シーメンス出身の島田太郎執行役上席常務が新社長に就任する人事を発表した。

 会長不在の会社のツートップである社長と副社長が退任、となれば普通は経営体制の大刷新である。だが発表資料を少し読み進めば刷新などするつもりがないことがすぐ分かる。綱川氏と畠澤氏は取締役に残り、取締役会議長も引き続き綱川氏が務めるのだ。

 綱川、畠澤両氏の「残留」は「次の定時株主総会まで」ということかもしれない。だが綱川氏の後任に指名された島田氏と、畠澤氏の後任になる東芝エレベータ社長の柳瀬悟郎氏が東芝を大きく変革させるとは思えない。

「DXの伝道師」

 新CEOになる島田氏は三井住友銀行出身の前CEO、車谷暢昭氏が2018年に独シーメンスから連れてきた外様である。1966年生まれの55歳とまだ若く、11万人の巨大組織を変革できるほどの腕力はない。「CPS(サイバー・フィジカル・システム)テクノロジー企業」なるものを目指すとぶち上げた車谷氏が、フィジカル(ものづくり)一辺倒の東芝にDX(デジタル・トランスフォーメーション)をもたらす、という触れ込みで連れてきた人物だ。

 島田氏は1990年、ゴミ収集車やダンプトラックなどの特装車や、航空機部品を作る新明和工業に入社した。航空機開発に10年従事し、ボーイング777、ガルフストリームG5、飛行艇US-2の設計などを担当したというから、エンジニアとしての腕前は確かだ。