オバマ米大統領が2010財政年度(2009年10月~2010年9月)予算教書をまとめ、「米国の将来の青写真」と自賛する就任後初の予算編成方針を示した。財政再建の道筋をつけると同時に、社会格差是正という民主党の党是を鮮明にしている。1960年代のジョンソン大統領の「偉大なる社会」構想に匹敵する「米国改造の大胆な試み」(ギングリッチ元下院議長=共和党)は、党派を超えて論議が白熱しそうだ。

 ジョンソン大統領の「偉大なる社会」は、(1)黒人への公民権拡大、(2)貧困撲滅、(3)教育強化、(4)高齢者対象の「メディケア」、身障者や生活保護世帯向け「メディケイド」という公的医療保険創設―の4本柱で構成。現在の米国の社会保障制度の基礎となっている。

 この構想は、「貧困層に政府頼みの甘えを許した」という批判がつきまとうものの、1963年のジョンソン大統領就任時に22%を記録していた貧困層が、70年には12%まで低下するなど、大きな成果を上げた。

V字回復前提、超楽観シナリオが柱に

 一方、オバマ大統領の予算教書には、2つの狙いがある。1つは、厳しい国の台所事情を国民に説明したうえで、中長期的な財政再建への理解を得ること。もう1つが、昨年の大統領選で表明した公約の実現であり、4年後の再選戦略を視野に入れている。

 巨額の公的資金を金融機関に投入する金融安定化策と、過去最大の景気対策の実施に伴い、2009年度の財政赤字は1兆7500億ドルに達し、過去最悪の2008年度に比べて3倍以上になる見通し。国内総生産(GDP)比でも12.3%が見込まれ、第2次世界大戦後では最も高い。

 国債の大量増発により、現在GDP比40%の債務残高は向こう数年で60%を突破してしまう。100%を超える日本と比べれば余力がありそうだが、長期金利の急騰を招いて景気回復を阻害するという懸念が強まっている。

オバマ米大統領、イラク駐留米軍の撤退計画を発表へ

イラクから段階的に撤退する米軍〔AFPBB News

 景気回復と財政規律維持。オバマ大統領の使命は、2つを両立させて実現することに尽きる。2009年度の財政赤字のうち、ブッシュ前政権から受け継いだ1兆3000億ドル(GDP比9.2%)の赤字を、最初の任期が終わる2013年度までに少なくとも半減させる財政再建目標を掲げた。今回の予算教書では、13年度の財政赤字は5330億ドル、GDP比で約3%になると見込んでいる。

 しかし、イラク撤退に伴う米軍駐留経費の縮小と、景気のV字回復による歳入増を当て込んでおり、かなり楽観的なシナリオと言えよう。2009年にマイナス1.2%まで落ち込む実質GDP伸び率が、2010年は3.2%まで急回復を遂げ、さらに2011~13年まで4%台の高成長が続くと予測している、いずれも民間のシナリオに比べると、1ポイント以上高い。