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 新型コロナウイルス感染症対策で常にボトルネックとなってきたのは、“医療の逼迫”である。強制力を伴う増床や医療従事者の配置はできないのか? 『コロナの憲法学』著者の大林啓吾千葉大学教授に、讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が訊く。全3回の後編。連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第76回。

医療機関への要請の難しさ

讃井 ロックダウンの問題(第74回)、ワクチン接種義務化の問題(第75回)に引き続き、新型コロナウイルス感染症に対する施策を法的観点から考えます。今回は、病床確保を強制的に行うことがなぜできないのかなど、医療供給体制と法律の問題について憲法学者の大林啓吾千葉大学教授に伺います。大林教授は、「憲法とリスク」を研究テーマの1つとされ、その中で公衆衛生の問題に取り組んでいらっしゃいます。

大林啓吾(おおばやし・けいご)
千葉大学大学院専門法務研究科教授。憲法の観点から公衆衛生の問題を研究し、著書に『コロナの憲法学』『感染症と憲法』『憲法とリスク』などがある。

讃井 この2年間、新型コロナ感染症による医療逼迫が大きな問題になりました。その背景にあったのは、日本特有の医療体制です。アメリカをはじめ欧米諸国の多くは大きな病院に医療資源が集中していますが、日本の場合は中小の私立病院に医療資源が拡散しているという特徴があります。平常時は、コンビニのように受診できて患者にとっては非常に便利なシステムなのですが、いざ非常時になると病床の転換がスムーズにできませんでした。トータルの病床数は十分過ぎるほどあるのに、新型コロナ感染症患者のために確保できた病床数は僅か数パーセント、しかも多額の補償が必要でした。また、指揮系統も不明瞭で、国公立病院に対してすら政府・自治体は強制力を発揮できませんでした。感染爆発時には、本来入院すべき患者が入院できない事態が発生したわけで、非常時の医療体制の準備としてはとても脆弱だったと思うのですが、法律的にネックになっていることはあるのでしょうか?