(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)
欧州連合(EU)の大国フランスでは、今年4月に大統領選が行われる。大統領選は、二期目を狙う現職のエマニュエル・マクロン大統領と、中道右派政党の共和党から出馬するバレリー・ペクレス氏(イルドフランス地域圏議長)の事実上の一騎打ちになる展開が、現状では有力視されている。この結果を受けて、5月には総選挙が実施される運びだ。
フランス国内では今一つ人気がないマクロン大統領だが、EU官僚はマクロン大統領に厚い信頼を寄せている。事実、EUのリーダーとしてのマクロン大統領の存在感は抜群だ。他方でペクレス大統領が誕生した場合、所属政党である共和党がフランスの国としての自律性を重視するため、フランスとEUの蜜月関係にも変化が生じる見込みである。
仮にペクレス氏が大統領になった場合、注目されるイシューがいくつかある。その中でも、EU拡大戦略の在り方は大きな影響を受けると考えられる。目下のところの注目点は、2023年以降に予想されるブルガリアとクロアチアの統一通貨ユーロ導入と、2025年を目途とする西バルカンのセルビアとモンテネグロのEU加盟にあると言えるだろう。
フランスは、EUの拡大戦略に対して基本的に慎重なスタンスを持つ。2021年末にEU拡大に前向きな発言をしたマクロン大統領でさえ、2019年10月のEU首脳会議でアルバニアと北マケドニアのEU加盟交渉の開始を拒絶した「前科」がある。ペクレス大統領が誕生すれば、フランスの態度が硬化し、EU拡大が足踏みする可能性が高まる。