(川島 博之:ベトナム・ビングループ、Martial Research & Management 主席経済顧問)
2050年のある日、50歳の誕生日を迎えた李は疲れ切って夜遅く自宅マンションに帰り着いた。
その日は作業工程でちょっとした事故があり、その始末のために残業しなければならなかったからだ。彼は工場の検品係をしている。製品は工業用ロボットがつくるのだが、検品は人間が行うことになっている。いくらロボットが精密になったといっても、最後のチェックは人間が行う。ただ、チェックをしている人間をロボットが監視しており、少しでもサボるとロボットに注意される。人間とロボットが相互に監視し合う妙な時代になったものだ。
帰り着くなり李は冷蔵庫の扉を開けてビールを取り出し、コップを片手に居間のソファーにどっかと座り込んだ。誕生日にもかかわらず李は一人ぼっち。独身なのだ。
ビールをぐい飲みすると、目を窓の外に向けた。そこには、李が住むマンションと同じ形をしたマンションが立ち並んでいるが、灯りが灯る部屋は少ない。空室が多いのだ。酔いが回るにつれて、李は自分の半生を回想し始めた。