9月21日、国連総会で演説する韓国の文在寅大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 韓国の有力紙「中央日報」は10月6日、「北の戦術ミサイル脅威、われわれの目の前に近づいた」と題するコラムを掲載した。

 コラムでは、北朝鮮のミサイル能力と脅威に対する評価を技術的・工学的な分析を経て客観的に判断しており、北朝鮮の脅威が一段と高まっていることを検証している。

 この記事に代表されるように、韓国メディアは北朝鮮のミサイル能力向上に激しく警鐘を鳴らしている。

ミサイル発射が続くのに「制裁緩和の時期が来ている」とは・・・

 しかし、文在寅政権は最近の金正恩総書記による南北通信線再開や金与正氏の「南側が敵対的でなければ関係回復の用意がある」という発言に惑わされ、北朝鮮の迫りくる脅威に目をつむり、むしろ北朝鮮に対する制裁の緩和の時期がきていると主張する。

 北朝鮮が核・ミサイル開発を続けられるのは中ロ、特に中国の協力があるからである。その中国に対して、韓国は米韓関係のギクシャクもあって、中国に配慮する姿勢を続けている。

 北朝鮮への融和路線、中国への過大な配慮に固執する韓国だが、それでも北朝鮮の完全かつ検証可能で不可逆的な核放棄は目指していくつもりなのだろうか。あるいは、高いミサイル能力と核を持つ北朝鮮との共存の道を取れると考えているのだろうか。

北朝鮮ミサイル開発、長足の進歩

 北朝鮮は9月に異なる種類のミサイルを次の通り、4回発射した。しかも、それら新型ミサイルは、米韓から迎撃されにくい特性を備えたものである。

 ミサイルの概要を、それぞれ振り返ってみよう。

【9月11~12日】新型の長距離巡航ミサイル発射実験

 長距離巡航ミサイルの出力はジェットエンジンだが、低い高度で飛ぶため、命中率が高く、迎撃が容易ではない。日米韓は北朝鮮の発表によってその事実を知った。射程距離1500キロのこの巡航ミサイルは東京をも射程圏内に収めることになる。有事の際、在日米軍基地から軍人と装備を載せて朝鮮半島に入ってくる艦艇を攻撃することが目的と見られる。

【9月15日】短距離弾道ミサイル2発を、列車に連結した発射台から発射

 朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」によれば、このミサイルは、飛行距離800キロで日本海の標的を「正確に打撃した」という。また北朝鮮が公表した映像からは、トンネルから出てきた列車の天井部分が開き、そこからミサイルが発射される様子が確認できる。移動式のため、発射の兆候を知ることは困難である。

【9月29日】極超音速ミサイル「火星8号」を発射

 極超音速ミサイルは、1月の党大会で開発すると公言していた新型戦術核兵器リストの中に含まれていたが、発射実験に成功したとのニュースは衝撃であった。これまで極超音速ミサイルに成功した国は米国、ロシア、中国の3カ国のみである。

 北朝鮮は誘導機動性や滑空飛行特性など全ての技術的指標が設計上の要求を満たしたと主張している。このミサイルは一般的な弾頭ではなく、翼がついた滑空飛行隊を搭載、大気圏の中で水平かつ極超音速で飛べばレーダー追跡が極めて難しく迎撃は不可能だ。今回のミサイルはマッハ2.5が観測されたが、マッハ5の速度を出せば追いつけない。

【9月30日】新型の対空ミサイルを発射

 対空ミサイルは主に戦闘機や戦闘ヘリを標的にするもので、防衛用のミサイルとみられる。試験発射では、空中の目標までの距離を大幅に引き上げたと評価している。

 このように、北朝鮮が保有するミサイル能力は、急速に向上しているのである。