白鵬への処分はないのか(2021年1月7日の明治神宮土俵入りで、AP/アフロ)

 東京五輪が終わり、パラリンピックが明日から始まる。一方で、デルタ株による新型コロナウイルス感染者の急増で医療崩壊の危機がまた叫ばれている。

 五輪の数日前でも「中止」してはどうかという見解を披瀝する人やマスコミもあったが、パラリンピック(爾後、パラ)についてはさほど中止の声が聞こえてこない。

 五輪を多くが家庭で楽しみ、街中の人流はかえって減少した。また、選手たちは「バブル方式」で厳重に管理され、危惧された感染者はほとんど出なかった。

 五輪後の感染拡大は五輪と直接的なかかわりはないと分かったからであろう。

 パラでは感染者を出さない一層の努力が行われ、こちらも原則無観客となったが、健常者の戦い以上に観る人に感動や刺激を与えるのではないだろうか。パラもテレビで大いに堪能したい。

オリンピック開催を「主張」した理由

 筆者は、五輪を開催して成功すべきだとくどいくらい主張してきた*1、*2。理由の一つは、オリンピックを目指して全人生をかけたであろう選手の気持ちを忖度し、区切りの機会を与えるというものであった。

 しかし、より大きな理由は民主主義国家対専制主義国家の優位性問題という国家存続の戦略が掛かっているという認識からであった。

 すなわち、東京2020が開催できずに、来年2月の北京冬季五輪が成功すれば、中国が専制主義の優位性を世界に喧伝しまくることが目に見えている。

 そうなれば、ただでさえ一帯一路で恩恵に浴している国家指導者が多い国際社会において、いよいよ世界の大部が中国に靡き、民主主義陣営として取り返しのつかない状況に陥るであろうと危惧した。

 コロナ禍で無観客のうえに選手団は行動の自由などが制約されてしまったが、逆に日本の開催が成功すれば、言論は自由で、人種差別も抑圧もない国家体制の優位性が自然に感得されるに違いない。

 それによって、香港の自由と民主主義を一方的に奪い、またウイグル人の文化・伝統や人種そのものを抹殺するジェノサイドを行う中国の異常な狂気を糾弾する米欧諸国と足並みをそろえて北京冬季五輪をボイコットする理由も成り立つとみたからである。

 もう一つ、最も重要なもので、慣例化している停戦の実行がある。オリンピック・パラリンピック期間とその前後1週間は停戦する協定に186か国が賛成している。

 今回は7月23日が五輪の開会、9月5日パラリンピック閉会であるから、7月16日から9月12日までの59日間の休戦である。

 戦後76年も戦争していない日本は、国民のほとんどが戦争の悲惨さを知らない。他方で、大部分の国は戦争の経験があり、幾つかの国や地域では今なお戦争や紛争が続いている。

 そうした状態がわずかに59日とはいえ停戦になればどれほど有難いか分からない。

 五輪開催を主張してきたのにはそうした意味も含んでいたわけである。

*1:元陸将補が問う、五輪反対派の亡国度  求められているのは延期や中止ではなく「大成功」、https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66007

*2:東京五輪を是が非でも開催しなければならない理由  世界に「日本は凄いぞ」と思わせるために一丸となれ、https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65652