選択肢が少ない方が患者にとっていい?
金田:全然違う。東病院で手術してくれることになっていた藤田武郎先生は、図解しながらしっかり説明してくれたし、こちらの質問がなくなるまで、じっと待っている。それをしておかないと、結局、患者は不安になるからね。
そもそも、瀬戸先生が言った、「そのつもりです」って、全然答えになっていない。あとで別のペーペーの医師がメスを握っても、「いやあ、あの時は自分がやるつもりだったんだけどね。実際は、ちょっと都合が悪くて若いのに任せました」ということもよくあるわけじゃない。
我々は記者として、不祥事を起こした社長に、「責任を取るのか」とか聞くと、「そのつもりです」と言って明言を避ける社長がいるじゃない。そういう曖昧なことを言う社長は、辞めるつもりなんかないんだよね。そういうやり取りを散々しているから、その答えが何の意味もないと分かるじゃない。瀬戸先生とのやり取りを聞いて、東大病院で手術を受けることに対する不安と疑念が湧いたね。

──『ドキュメント がん治療選択』の最後に、瀬戸教授のインタビューが出ています。本を出すに当たり、自分の話だけでなく、もう一方の当事者に聞くところが、金田さんが一流の書き手であるゆえんですが、読後感として、瀬戸先生も何か他意があるような人ではないとも思いました。
金田:悪い人では全くない。むしろ、自分の対応に自信を持っている。書籍でも書いたけど、私のように、あらゆる選択肢を検討して自分で選択したいと考える人もいる一方で、いろいろなオプションを出されると迷ってしまう患者が多いのも事実だから。
瀬戸先生にすれば、多くのオプションを提示してどの治療を受けるか迷ってしまうよりは、「先生にお任せです」とベルトコンベア方式で進む方が患者にとってもいい、という考え方だと思う。だから、自分がいいと思った治療をどんどん進めていって、患者の方から「やっぱり先生」と言ってくれば、別の選択肢を紹介する。
裏を返せば、東大病院のようなやり方を求めている国民が多かったということだと思う。書籍を見て、多くの人は東大病院の対応に違和感を持つかもしれないけど、自分ががんになった時は東大病院方式がいいという人は、今も多いんじゃないかな。
──国立がん研究センター東病院に転院した理由は、「説明が足りない」ということに由来する不信感が大きいですか?
金田:もう一つは、同部屋で一緒になった他の患者さんたちだね。東大病院もがんセンターも4人部屋に入院したんだけど、同部屋の患者さんたちには本当に感謝している。なぜかというと、自分が治療を受ける前に、その病院が、患者にどのような対応をするかということが、手にとるようにわかる。だから、自分の治療の疑似体験ができるわけです。
私の入院時が、たまたまではあるんだけど、周囲の患者さんの状態がどんどん悪化していった。隣のベッドにいた高齢の患者さんが、「この貯金を誰々に渡して」と奧さんに話していたり。そういう状況の中、私は医者の対応が、どうしても納得できない、医療方針が理解できなかったんだよね。とても治るように思えなかった。
ほかにも、同室に若いけど状態の悪い患者がいた。彼は胃瘻で栄養剤を流し込んでいて、回診に来た若い医者に「いつになったら口でメシが食えるんだ」とブチ切れていた。ということは、おそらく、治療によって普通に食事ができる状態になるはずだったんだろうね。
そうしたら、その若い医者が「○○先生に聞いておきます」と言って部屋から出ていって、しばらくして戻ってきたら、「『じゃあ、バイパスかな』と先生が言っていました」って。その言い方がひどいじゃない。「じゃあ、バイパスかな」だよ。仮に○○先生がそういったとしても、もっと違う伝え方があるでしょう。
──バイパスというのは?
金田:これは想像だけど、その患者さんは放射線治療で食道がヤケドしているか、食道がんの腫瘍が大きすぎて、食べ物が通らない状況だったと思う。それで、胃に穴を開けて栄養剤を入れていた。一方のバイパスというのは、別の人工管を口の下から胃か腸まで通す処置のこと。もちろん、口で食べるから食べ物を味わうことはできるけど、本人の希望とは全然違うよね。かなりの大手術だし、患者にとって「解決」になっていない。
そういうやり取りを聞き続けていて、ああ、自分もそういう風に扱われるんだな、と。自分がモルモットになって、医師のいい実験台として使われている感じがしていた。