「先生がやってくれるんですよね」

金田:その日の体調によるけど、なぜか大丈夫だった。以前にテレビで、水泳の池江璃花子選手が「抗がん剤がきつくて、食事がとれなかった。携帯を触ることもできなかった」って証言していたけど、私の場合は文字も書けないほど状態が悪い時はなかったね。

 私の場合、東大病院で抗がん剤治療の1クール(1週間)をやり、残りの4クールを国立がん研究センター東病院でやりました。特に、1回目の抗がん剤治療は「東大カクテル」と言われる強烈な抗がん剤で、1回目で髪の毛がぜんぶ抜けた。一般的に、抗がん剤治療を3クールやって「少し髪が薄くなったね」という程度の人が多いんだけど、私は1クールですべて抜けたんだよね。

──今は髪の毛は戻っていますね。

金田:でも、前は直毛だったじゃない。それが、パーマがかかったような感じになってるでしょ。

──あ、本当だ。パーマがかかっていますね。

金田:何もしないで、こんなロックギタリストみたいな髪だからね(笑)。ひさびさに会った人に「その髪型、いいですね」って言われるんだけど、これ、髪型じゃないのよ。スキンヘッドから勝手に伸びただけで、散髪してないんだから。

最善の選択のために東大病院を逃げ出した

──2020年3月末にがんの疑いが濃厚になり、4月6日に東京大学の瀬戸教授に正式に食道がんと宣告されます。その時はどういう気持ちだったのでしょうか。

金田:地元のクリニックで「がんです」って断言されていたので、覚悟はしていた。ただ、何がショックだったって、説明がなかったこと。もちろん、食道がんというのは分かっているし、抗がん剤を打ってから手術するという手順は言われたけど、それだけ。でも、がんがどういう状態で、どういう手術をするのか、ほかの治療法はないのか、術後にどういう生活になるのか、という説明がなかった。

 なぜ「説明がない」と感じたかというと、私の母が乳がんになった時の経験があったから。母は地元の総合病院で乳がん手術を受けることになるんだけど、手術をする、しないの判断の時に、私も一緒について行ったことがあって。

 その時、説明の場に来た若い外科医はCTの画像を見せながら、どこが腫瘍かという説明から、「完全にリスクをなくすためにはここまで切除した方がいい」とか、「でも美容上、ここまで切ればかなりの確率で問題ない」とか、手術の選択肢をいくつも話して、術後の放射線治療の選択肢もいくつか出したり、1時間近く説明してくれた。私もガンガン質問して、かなり内容がつかめたのよ。

 母はその前に胃がんになり、それこそ東大病院の瀬戸教授のところで胃の一部を摘出していたので、どうせ治療するなら大きな範囲を取りたいと考えていた。ただ、私は横で聞いていて、どう考えてもそこまで広い範囲で切除する必要はないように思えた。指の先をちょっと怪我しただけなのに、指を取り落とします、というふうに聞こえるわけ。その時は一度、選択肢を持ち帰って、母や妹と話し合って、最終的には最小限の切除にすることを、母が自分で決めたんですよ。

 この時の経験があったので、自分のがんについてもいろいろと説明があると思ったんだけど、CTや内視鏡の画像は見せてくれないし、すぐに「手術だ」と言うし。しかも、東大病院オリジナルの治験だか研究があるからサインしてくださいと言われるし。わずか5分ちょっとの説明の中で、サインをしている時間が大半なんだから。

 それで、「じゃあ」と立ち上がって出ていこうとするので、「ちょっと待って」と出口を塞いだわけ。すぐに質問が出せるような状況ではなかったけれど、とりあえず瀬戸教授が直接手術してくれるかどうかを確認したくて、「先生がやってくれるんですよね」と質問した。曖昧な答えだったけどね。

──「そのつもりです」という回答ですね。国立がん研究センター東病院も同様でしたか?