(英エコノミスト誌 2021年7月24日号)

ワクチン接種で世界トップランナーの英国でもデルタ株が猛威を振るっている

英国政府は、自らの戦略への反響に不意を突かれている。

「フリーダム・デイ(自由の日)」と称された7月19日が始まる真夜中に、ナイトクラブの常連客たちがダンスフロアに戻ってきた。しかし、そこには不安感も漂っていた。

「制限撤廃を撤回しろっていうものすごい圧力がボリス(・ジョンソン首相)にのしかかっていることは明らかだ」

 あるクラブのプロモーター(主催者)がインスタグラムにそう投稿した。「感染者数が急増したら、あいつは100%、クラブがスーパースプレッダーになったと言い出す」と続けた。

 だからお願いだ、参加する時には必ずラテラルフロー検査(無症状者が対象の迅速検査)をしてきてほしい。検査キットは「薬局で、タダで手に入るぞ!」――。

デルタ株の感染が急拡大

 新型コロナウイルスの変異株である「デルタ株」が、英国で波紋のように広がっている。1日当たりの新規感染者数は4万人を超えており、1月のピークの3分の2に当たる水準に達している。

 新規感染者数は2週間ごとにほぼ倍増している。

 おかげで、イングランドでの感染緩和を目指した措置のほとんどを――集会の規模の制限、マスクの着用義務、社会的距離を確保する義務などを――解除するというジョンソン首相の決断は、今月初めの発表時に比べればかなり勇敢なものに見える。

 前出のプロモーターは、政治の力学をおおむね正確に読み取っていた。

 次に何が起きるのか。これには諸外国も関心を示している。

 何と言っても英国は、成人のほとんどがワクチン接種を受けた状況でデルタ株という感染力の強い変異株の波に直面する最初の国だからだ。

 ワクチン接種と獲得免疫の2条件が整えば厳格な移動制限を解除できるのか、そして新型コロナウイルス感染症をインフルエンザやコロナウイルスが引き起こす普通の風邪などと同様に扱えるようになるのかという、重要な問題の答えを探し求めている外国の政策立案者は固唾をのんで見守ることになる。