南太平洋・チューク諸島の海に眠るゼロ戦。日本人が忘れてはならない戦争遺跡であると同時に、現地の人たちにとっても島の歴史と生活の記憶を刻む貴重な文化遺産だった──。水中考古学者の山舩晃太郎氏は、珊瑚礁が広がるミクロネシアの美しい海の底で何を見たのか? 山舩氏初の著書『沈没船博士、海の底で歴史の謎を追う』(新潮社)から一部抜粋・再編集してお届けする。(JBpress)
戦争と水中遺跡保護
日本、サイパン、グアム、ミクロネシア連邦、そしてオーストラリア――。近年これらの国々、地域で重要視されている研究対象がある。
太平洋戦争で沈んだ船舶や航空機といった水中戦争遺跡の保護だ。
2045年には戦後100年を迎える。それまでに水中戦争遺跡の保護をしよう、と太平洋各地で様々なプロジェクトが立ち上がっているのだ。
実は、水中考古学の世界の中では、20世紀の戦争遺跡を専門とする船舶考古学者、海事考古学者は極めて少ない。決して避けているわけではないが、研究者は私も含め、「船や水没遺跡にまつわる、これまで知られていなかったことを知りたい!」という衝動に駆られている。だから設計図の存在することが多い20世紀の船舶は研究対象になりにくいのだ。しかし「近代史の歴史学者」で水中に潜れる人物が少ないので、水中作業の経験豊富な水中考古学者達が、水中戦争遺跡保護活動の役目を引き受けている。
以下では私がコバルトブルーの美しい太平洋の島国・ミクロネシア連邦で経験した水中戦争遺跡に関わるプロジェクトについて紹介したい。私自身、それまで知らなかった歴史に触れた日々だった。
息を飲むほど美しいチューク諸島の景色
ミクロネシアとは、グアムやサイパンがあるマリアナ諸島、ギルバート諸島、マーシャル諸島、そしてパラオやカロリン諸島といった国や地域の総称である。