「カーボンニュートラル」が空洞化を加速する

 国民所得統計ではピンと来ないと思うので、具体的に自動車業界をみよう。3月11日に行われた日本自動車工業会の豊田章男会長の記者会見で印象的だったのは、次の表のように自動車の国内生産比率が34%しかないことだ。トヨタはまだ「国内300万台」で38%とがんばっているが、ホンダと日産は16%しかない。

 こうした製造業の空洞化による国内投資の不足が、2000年代以降のデフレやゼロ金利の最大の原因である。そのきっかけは1990年代に中国がグローバル市場に参入して、安価な労働力が大量に供給されたことだ。

 1994年にはGDPの10%程度だった対外直接投資は、リーマン後の円高で30%まで上昇し、2019年にはアメリカを抜いて世界一になった(海外事業活動基本調査)。「グローバル化に立ち後れた日本企業」というのは幻想なのだ。

 その結果、安倍政権の時期(2013~18年)に企業の経常利益は73%増加し、株主への配当は88%増加した(法人企業統計)。この時期に日経平均株価は約3倍になったが、それはバブルとは言い切れない。

 グローバル企業にとっては、2010年代は「失われた10年」ではなかった。日銀の緩和マネーで資本コストがほとんどゼロになり、大量の資金が調達できるようになった。その投資は人口の減少する国内ではなく、マーケットの広がるアジアの新興国に向かったのだ。この結果、国内の雇用は失われ、賃金は下がった。

「2030年までにCO2排出46%削減」という菅政権の政策は、この空洞化を加速する。2010年代に日本のグローバル企業は賃金の安い国に直接投資を進めたが、今後はCO2規制が強まってエネルギーコストの上がる日本から、コストの安い中国などへの移動が進むだろう。

 それはグローバル企業にとっては合理的だが、日本経済の空洞化は促進され、国内の格差が拡大する。こういう長期的な変化は目に見えないので、気づいたときには取り返しのつかないほど日本と中国の格差は広がっているだろう。それを知らないで「政府がお金をばらまけば景気がよくなる」というMMTを信じている人は、おめでたいというしかない。