木崎伸也氏の連載企画第2回は、戸塚宏氏へのインタビューを実施。今回は後編を掲載する。

前編「戸塚ヨットスクール校長語る「俺は偏差値秀才だった」」はこちら
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65570

中編「戸塚宏「精神論を語るやつはダメになる」」はこちら
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/65572

(木崎 伸也:スポーツライター)

戸塚宏(とつか・ひろし)
名古屋大学工学部卒。大学からヨットを始め、1975年に沖縄海洋博記念「太平洋-沖縄・単独横断レース」で優勝。翌76年に戸塚ヨットスクールを設立。79年から82年にかけて、体罰が原因とされる塾生5名の死亡事故が起こり、傷害致死罪、監禁致死罪で起訴される。19年を要する長期裁判ののち、懲役6年が確定。現在は出所し、同スクールを再開している。

いまは本能がダメだから、体罰でも手遅れ

——かつて戸塚ヨットスクールは、不登校児、ひきこもり、非行少年・少女の更生施設として知られていましたが、もうそういう問題児の受け入れはやっていないそうですね。

 今、うちで受け入れているのは、3歳から8歳までのジュニアだけやね。

 長いことやって、わかったんや。昔は入って来た訓練生とその親に対して『ちゃんとしてやる。必ず直してやる』と言うことができた。今はね、それが全然言えん。もう直らんから。

——昔は直す自信があったけど、今はないということですか?

 もう手遅れね。これは時代の変化やなく、教育の変化なんよ。教育が何をすべきかを、リベラルの人間は全然わかってない。

——昔と比べて何が変わったんでしょうか?

 本能がダメになっとる。前はうちに連れて来られるような子でも、本能はまだなんとかあった。

 でもマスコミが『叱るより褒めろ』と宣伝し始め、それが次は『叱るのがけしからん』になり、おかしなことになっていった。

 小さい頃に叱られないと、罪悪感ができん。悪いことをしたときに大きな不快感が生じるようにしとかないかん。

 さあ悪いことをするぞといったときに、その罪悪感が出てくる。だから悪いことをせんのや。

 でも今の子供は叱られていないから、罪悪感が弱い。

——それ以外には何かありますか?

 あと反省ができん。それは恥を掻いてないからや。恥をかくのは非常に大事なことなんよ。

 でも今の教育委員会に聞いてみてごらん。恥をかかせるのは悪いことだというから。ちゃんちゃらおかしい。

 論語に『恥有りて且つ格る』という言葉がある。恥が人間を進歩させるぞ、という意味や。論語にしても儒教にしても仏教にしても、素晴らしいものは使わんとね。だけど、使い方を教えてくれんじゃん。これが文化系なんだ。

 文化系の学者やマスコミがなぜダメかというと、偏差値秀才ばっかりなんや。

 偏差値秀才というのは、知育に失敗しとる。徳育も全然ダメだ。体育もダメや。知育、徳育、体育が目指すものを全然理解できていない。

 偏差値秀才というのは、教育の失敗者なんや。その失敗者が大きな顔をして日本のリーダーになっとるんじゃ。