4月16日の日米首脳会談後の「U.S.-Japan Joint Leaders’ Statement」はA4で4枚強あり、これを読んだ関係者からは「よくぞここまで踏み込んだ」という反応が多く聞かれた。菅首相は多くの踏み絵をさせられたという見方もある。
いずれにせよ、尖閣諸島の近海に侵入する中国海警の艦船の動きに神経を尖らせる日本人が増える中、総選挙を前にした菅首相にとっては大きな得点稼ぎになったことに間違いはない。
筆者は、4月19日付拙稿「アーミテージ訪台の意味に気づかない日本のお気楽」で、台湾を守ろうとするバイデン政権が日本政府に本格的な共同歩調を求めるため、経済的な結びつきで親中に傾く日本の産業界にくさびを打ち込みにきたという点を指摘した。もっとも、日米首脳共同声明であれ、アーミテージ氏を含む元高官や上院議員の訪台であれ、それはあくまでも表の議論である。
それでは、バイデン大統領が日本に求めようとしたものは何か。今回は武器の購入などのお金ではなく、ずばり「憲法改正」に日本を誘導することだと思われる。半導体の開発に2000億円を拠出するという話もあるが、安倍・トランプ時代に比べて金額が小さく、それ自身はあまり重要ではない。
米国が日本にとって最も重要な国であることは論を俟たないが、昭和16年の南部仏印進駐と援蒋ルートの切断、さらには独ソ戦の開始から対米英蘭開戦に至るまでの歴史を振り返っても分かるように、日本は国運を左右される選択を米国に迫られてきた。現在の菅政権は、過去の近衛政権および東条政権と同様に、米国に選択を突きつけられている。
首脳会談後の日本のメディアやネットでは、インド・太平洋構想、台湾問題、ウイグル問題、半導体問題、サイバー問題など、百家争鳴と言わんばかりの様々な説明が繰り返されている。だが、共同声明には欠けているものがあることを誰も指摘しない。
それは、日本が憲法9条を改正しない限り、共同声明で謳っているほとんどのことが実現不可能だと言える点だ。あえて言えば、菅政権の閣僚があたかも実現可能な発言をし、法解釈上ぎりぎりのところまで自衛隊が行動することで、「私は頑張っていますよ」とパフォーマンスをすることができる程度だ。
また興味深いことに、立憲民主党や共産党は沈黙をしている。国民民主党と維新の会は改憲派なので問題ないのだろうが、立憲民主党と共産の両党は米国が怖くて何も言えないのかもしれない。むしろ立憲民主党の枝野幸男代表は独自の改憲案を持つ松下政経塾出身者として、密かに改憲議論を待っている可能性もある。
恐らくほとんどの政治家は、自身で読み解いたか、周囲の専門家から聞いたかして、バイデン大統領の真の要求内容を理解しているだろう。われわれ一般庶民は無用な議論に惑わされてはいけない。