水素社会の実現に向けたロードマップ

 経済産業省は、水素社会の実現に向けて2013年に「水素・燃料電池戦略協議会」を立ち上げました。そこで産官学の有識者による水素エネルギーの利用に向けた検討を開始しています。2014年には水素社会の到来に向けたロードマップを策定し、2016年に改訂した後、2019年3月に新たな「水素・燃料電池戦略ロードマップ」をあらためて策定しました。

 ロードマップでは、2025年までに達成すべき目標を数値で示しています。水素に関連する技術は、実用的なレベルまで技術的に練り上げられてから社会で本格的に実装されるまでに5年くらいの時間がかかります。そのために前もって将来の見通しを明示しておくことがとても重要で、そこで目指すべきターゲットを設定する意味もあってロードマップが必要となってくるのです。

 そのロードマップには、2025年にFCVとハイブリッド車(HV)との価格差を、現在の300万円から70万円に引き下げることを目指しています。またFCVの主要システムのコストの引き下げとして、燃料電池を2万円/kW時から0.5万円/kW時に、水素貯蔵コストを70万円から30万円に、水素ステーションを構成する圧縮機を9000万円から5000万円に、蓄圧機を5000万円から1000万円に、それぞれ引き下げることを書きこんでいます。

 さらに2020年代後半にはFCバスの車両価格を、現在の1億500万円から5250万円に引き下げ、全国で水素ステーションのネットワークを構築し、スタックの技術開発も加速させると明記しています。

 水素を供給する上での目標としても、2020年代前半には褐炭ガスを使った水素製造コストを現在の数百円/Nm3(ノルマルリューベ:標準的な大気圧で気温0℃、乾燥下での気体の体積)から12円/Nm3に引き下げ、貯蔵・輸送に関しても液化水素タンクの規模を数千㎥(立法メートル)から5万㎥へ、水素液化効率を13.6kW時/kgから6kW時/kgへ。2030年には水電解装置のコストを20万円/kWから5万円/kWへ引き下げることを掲げています。

 その上でロードマップでは、FCVに関して2025年までに20万台程度の普及を目指し、2030年までに80万台にまで普及させることを明記しています。

燃料電池自動車は「究極のエコカー」

 FCVは走行時に排出するのは水だけ、二酸化炭素や大気汚染物質を排出しないことから「究極のエコカー」と呼ばれています。燃料電池を用いて発電した電気を使ってモーターを回し、駆動軸を回転させクルマを走行させます。

 エアポンプで車外から空気を取り込んで、その空気を燃料電池に送り、空気中の酸素と水素の化学反応によって発電し電気を作ります。化学反応の際に水が生じますがこれは車外に排出します。燃料電池で作られた電池は、コントロールユニットで制御されて駆動モーターに供給されます。

 FCVのメリットは次の6つです。

1、クリーンである
 走行中にFCVから排出されるのは水(水蒸気)だけで二酸化炭素や窒素酸化物の排出はありません。

2、エネルギー効率が高く省エネである
 化学反応から直接電気を取り出すため、発電効率が高まります。

3、多様な燃料、エネルギーが利用可能である
 水素の製造には、天然ガス、エタノールなど石油以外の多様な燃料が利用でき、将来の石油枯渇問題にも対処できます。また風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーを利用して水素を製造することで、環境への負荷も軽減できます。

4、騒音が少ない
 燃料電池は化学反応で発電するため、内燃機関の自動車と比較して騒音や振動が少なく静かです。車内が快適であるのはもちろん、都市全体の騒音対策にも効果があります。

5、短時間で燃料を充填できる
 電気自動車の充電が長時間かかるのに対して、水素の充填は3分で済みます。1回の充填による走行距離も電気自動車より長く、ガソリン車とほとんど変わりません。

6、災害時には非常用電源として使える
 電力を外部に供給できる機能を備えている車両であれば、災害時に車載の燃料電池で発電した電力を電源として利用することができます。

MIRAIトヨタ自動車の量産型FCV「MIRAI(ミライ)」
Karolis Kavolelis / Shutterstock.com