経営改革の成功要因

 一方、改革の一環として、チェンジマネジメントの活動を行えば行うほど、改革の成功率は向上するという結果が見られました。では、どのようなタイプのチェンジマネジメント活動と、どのようなプロジェクト体制が、より成功しやすいのでしょうか?

●1.プロジェクト体制

 改革におけるチェンジマネジメントは、さまざまな部署やチームが担当しており、特定の組織に偏る傾向は見られませんでした。チェンジマネジメントの主な担い手としては、経営企画部門(61%)、改革対象部門(62%)、プロジェクトチーム(54%)がより多く選ばれています。

 また、チェンジマネジメントを担う部門・チームごとの改革成功率については、大きな差は見られませんでした。ここから言えるのは、「成功の要因は、どの部門・チームが担当するかというよりも、明確な役割を定義し専門の部隊を任命することが重要だ」ということになります。

●2.リーダーシップ

 改革以前から保持する「リーダーシップの強さ」も、ビジネスの変化への適応に影響します。「改革前から保有していた能力や文化」のうち、経営改革の成功に寄与した要因として最も多く選択されたものの中には、リーダーシップや改革の目的を明確に示すこと、経営層とミドルマネジメントの合意形成がなされていること、そして、機能をまたいで協力し協業する強い文化などが含まれます。

 これらの要素は、改革への貢献を高めることにつながるリーダーシップへの信頼を高めることに貢献します。

●3.従業員の巻き込み

 改革では、上記で述べた企業が平常時から保有する力や文化に加えて、「積極的に関与する従業員」の存在が、変化をより早く受け入れる鍵となります。成功した改革の63%が改革期間中従業員の賛同を得ており、失敗した改革の30%と大きな差があります。

 また、チェンジマネジメントを実施した企業は、従業員の賛同を得ていた割合がチェンジマネジメントを実施しなかった企業より19%も高いことが確認されました。従業員の関与を高めることに貢献する特定のチェンジマネジメント活動があります。

 チェンジマネジメントを行うことで、改革に賛同する従業員を増やし、より早く変化に適応することができます。具体的には「改革について、従業員に十分に説明され、良く理解されている」、「改革の背景、ビジョン、ゴールは明確に定義されている」、「改革を推進するのに必要となるリソース(ヒト・モノ・カネ・情報)は十分に確保されている」が上位としてあげられます。

 プロジェクトチームの計画の際には軽視されがちですが、このような活動を計画し実行するには時間と集中が必要です。

まとめ

 経営改革の成功は、目的・期間・予算の達成により判断する場合が多いですが、これは表面上の成功です。改革の効果が持続し、企業成果へとつながっていくには、トップやミドルマネジメントだけでなく、関係する全従業員の賛同を得ることで、改革導入後、中長期にわたり持続的な成長をもたらす「真の成功」を得ることができます。

 今後求められている改革は、これまで行ってきた改革より複雑で難易度が高いことがわかりました。すなわち、改革を成功させるためには、日本においてもチェンジマネジメントを部分的ではなく包括的行う要員を定めることが今まで以上に重要となります。

【追記】
(1)チェンジマネジメントにおける人事の役割に関する調査結果については、後日、別の記事でご紹介いたします。

(2)本稿の調査全般、改革・組織・組織能力に関する監修および学術的専門知識の提供:産業能率大学 経営学部 教授 小出琢磨(経営学博士)

【英語版の記事】
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English translation, Please click here to see the English version of this article.
「What are the key factors for a successful transformation? -Trends and importance of change management」

 

 

著者プロフィール

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープル・アドバイザリー・サービス アソシエートパートナー
Nancy Ngou(ナンシー・ナガォ)

カルチャー変革やチェンジマネジメントサービス領域の責任者を務める。リーダーシップ、ビジネスオペレーション、人事実務領域において35年以上の経験をもつ。組織風土変革、チェンジマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョン支援など、組織変革サービスを統括。多国籍企業の要員計画の策定及び実行、従業員・役員報酬制度の再設計、企業責任、グローバルリーダーシップ開発、人事変革、人材獲得、オフショアリングにおける企業目標を踏まえた人事戦略の策定及び実行に豊富な経験を有する。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社

著者プロフィール

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープル・アドバイザリー・サービス シニアマネージャー
花見 佳苗子

システムインテグレーター、外資系総合コンサルティングファームを経て現職。。現職でチェンジマネジメントのチームを立ち上げた。企業改革に関するスペシャリストであり、多数の日本国内、グローバルの改革の経験を有する。改革で携わった業界や改革の範囲も多岐にわたり、改革の範囲としては営業、購買・生産、人事、会計、情報セキュリティ、企業文化など。専門はチェンジマネジメント、プロジェクトマネジメント、組織設計、業務設計。

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