必要なのはスキルではなく“センス”と“志”

『鬼滅の刃』を読み終わると、後継者育成に大切なポイントを改めて認識できます。ストーリーの中では、厳しい死戦をくぐり抜けて技術を高めていっても、「柱」にはなれない鬼殺隊のメンバーたちの姿が描かれています。一方で早くからその才能が認められ、若くして「継子」や「柱」になった人物も登場します。『鬼滅の刃』からは、才能や技術があったとしても、優れたリーダーになるのは難しいということが読み取れるのです。

 では、優れたリーダーになるには、どうすればよいのでしょうか。炭治郎は最初、何の能力もないただの少年でした。しかし、「鬼になった妹を救う」という強い大志を抱き、その「妹を守る気持ち」が、厳しい鍛錬に耐える力となりました。炭治郎は後半から、自らが持っていた知識である「日の呼吸」を使い始めますが、それも最初は完全ではありません。決してはじめから優れた才能があったわけではなく、強い想いが炭治郎をプロへと突き動かしたのです。

 また、炭治郎には厳しい鍛錬を続けられるセンスがありました。修行の中で自らの「できない部分」を改善しながら成長していき、時には戦いの中でも改善点を考え、その場で対応方法を決めています。

 目的のための行動を継続できること。そして自らを常に改善できること。これはひとつのセンスと言えます。元メジャーリーガーのイチロー選手も、メジャーリーガーになれた理由のひとつとして「ほかの人が苦しいと感じていた毎日の練習が苦ではなかった。練習を日々の生活の一部として当たり前のように習慣化していた」とあるインタビューでお話なさっていました。

 優れたリーダーを育てるのは、知識ではなく厳しい実践だと言えるでしょう。実際に『鬼滅の刃』の本編でも、炭治郎が厳しい修行の中で「知ることと感じることは違う」と言っていました。どんなに知識を覚えたとしても、それは想像の範囲でしかありません。知識を「リアリティある技術」へと昇華させるのは、自らの継続的な努力と行動力なのです。

 また、優れたリーダーを育てるのは、やはり優れたリーダーです。炭治郎は「柱」たちとの出会いの中で、先輩たちからの刺激を受けながら成長していきます。特に、煉獄(れんごく)さんから伝えられた「心を燃やせ」という言葉は、炭治郎の成長を促していきます。

 このように『鬼滅の刃』からは、リーダーの後継者を育てるには知識だけではなく、「厳しい実践」と「優れたリーダーによる薫陶」が必要だと深く気づかされるのです。

 日本企業の現場では、後継者育成の重要性がまだまだ認識されていません。しかし「厳しい実践に耐えられる素質を持った人材」を早期に見極めて育成することは、事業の存続を大きく左右すると言っても過言ではありません。ぜひ『鬼滅の刃』を読んで、改めて後継者育成の難しさと重要性を感じてみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール

中野 在人

大手上場メーカーの現役人事担当者。

新卒で国内最大手CATV事業統括会社(株)ジュピターテレコムに入社後、現場経験を経て人事部にて企業理念の策定と推進に携わる。その後、大手上場中堅メーカーの企業理念推進室にて企業理念推進を経験し、人材開発のプロフェッショナルファームである(株)セルムに入社。日本を代表する大手企業のインナーブランディング支援や人材開発支援を行った。現在は某メーカーの人事担当者として日々人事の仕事に汗をかいている。

立命館大学国際関係学部卒業、中央大学ビジネススクール(MBA)修了。

個人で転職メディア「転キャリ」を運営中 http://careeruptenshoku.com/
他に不定期更新で人事系ブログも運営。http://hrgate.jp/