新型コロナウイルスの宿主と見られているコウモリ(写真:Solent News/アフロ)

(霧立 灯:フリーランスライター)

 新型コロナウイルスと人類との戦いが始まって、1年以上が経った。若干の勢力の衰えは見えてきたものの、今のところまだウイルスが優勢で、人間は打撃を受けた経済の立て直し、オリンピック開催問題の協議、リモートワークの拡充など、要塞の綻びを繕うことに追われている。

 最近、ようやくワクチン接種が各国で始まったが、変異を繰り返すウイルスに対してワクチンはその場しのぎの解決法でしかない。

 また、毎年冬になると鳥インフルエンザの被害が相次いで報告される。今シーズンはとりわけ発生件数が多く、したがって殺処分される鳥の数もおびただしい。すでに1000万羽近くの鶏(大半はウイルスに感染していない鶏)が感染拡大を防ぐために殺されている。

 もちろん、目下の緊急事態に対応する必要性はあるのだが、ワクチンや家畜の殺処分は事後対応でしかなく、根本的な解決からはほど遠い。それは、屋根裏からの雨漏り箇所を突き止めて修繕することをせずに、ただ濡れた床を必死に雑巾で拭いているようなものだ。雨はいつかやむが、また必ず降り出す。

 根本的な解決を考えるには、ウイルスの発生を辿っていかなくてはならない。今回の新型コロナウイルスでも、世界保健機関(WHO)の調査チームが武漢を訪れいくつかの仮説を検証している。確かな感染ルートはまだ調査中とのことだが、前トランプ政権が主張していた「武漢研究所からのウイルス流出」というシナリオの妥当性は低く、なんらかの経路で野生動物から人間へと感染が広がったという見方を示している。

 米疾病予防管理センター(CDC)によると、近年の新興感染症の75%は動物由来だという(出所リンク)。1970年代後半からアフリカで断続的に大発生しているエボラ出血熱は、宿主のオオコオモリや感染動物であるゴリラやチンパンジーなどから人間へと感染が拡大した。

 1980年代後半にパンデミックとなったHIV・後天性免疫不全症候群(AIDS、エイズ)も、発生源はアフリカのチンパンジーだった。2002年に中国で初めて確認されたSARS(新型肺炎)は、当初宿主はハクビシンだと考えられていたが、研究が進むにつれ野生のコウモリである可能性が高いとされている。

 このように人獣共通感染症の発生が、発展途上国に集中しているのはなぜだろうか。経済的な貧しさや医療制度の遅れ、予防についての知識不足などが大きな要因になっていることは明らかだ。

 しかし、それらは「感染拡大」の要因であって、そもそもの「感染」の原因ではない。ウイルスの感染源にまでさかのぼれば、野生動物と人間や家畜の接近が直接の原因だということが明らかになっている。