定期的に上司と部下が1対1で面談を行う「1on1」は、近年注目されているマネジメントの手法だ。シリコンバレー発祥の1on1は、部下の成長をサポートするとともに円滑なコミュニケーションにも役立つ。国内の大手企業も導入している1on1とはどのようなものなのか、その効果や事例を紹介する。

「1on1」の目的とは? 人事面談とは何が違う?

「1on1」とは、上司と部下が定期的に行う1対1のミーティングのことを指す。一般的に、週に1回、少なくとも月に1回は行われる。1回あたりのミーティングはおおよそ30分程度と比較的短く、人事評価のために行われる面談とは目的も内容も異なる。

 1on1は、IT企業が軒を連ねるシリコンバレーで生まれたマネジメントの方法で、近年では国内の大手企業も1on1ミーティングを取り入れるようになった。企業はなぜこのようなミーティングを行うのだろうか。1on1の目的や導入の背景について見ていこう。

●「1on1」を実施する目的について
 上司と部下が面談をするというと、多くの場合人事評価のための面談を思い浮かべるのではないだろうか。上司が部下に対して一方的に質問や指摘を行い、部下がそれに答える人事評価面談は、一方通行で双方向のコミュニケーションが図れない。

「1on1」では、対話型のコミュニケーションを重視する。上司は部下の話に耳を傾け、部下は上司に自分の考えを伝えていく。1on1の目的は部下の成長の促進、部下の育成にある。短期的なスパンで短時間のミーティングを積み重ねて部下の能力開発を促進する。

●「1on1」が注目される背景にある人材不足
 今後ますます減少する人材をどう確保していくのかは、現代の企業が考え続けなければならない課題だろう。上司と部下のコミュニケーション不足による摩擦は、生産性の低下に加え離職にもつながる場合がある。採用した人材がすぐに離職してしまう状況は避けたい。

 また多様な働き方が認められ広がりつつある今、業務時間が異なるフレックスタイムで働く社員やテレワークで働く社員とはコミュニケーションが不足してしまいがちだ。多くの社員が「ここで働き続けたい」と思える環境を構築するためにも、上司と部下はお互いが何を考え仕事をしているのかを理解する時間が必要になる。そこで注目されたのが「1on1」ミーティングだ。上司と部下が互いの心情を理解することで、業務の円滑化も図れるだろう。

●人事評価面談との違いは
「1on1」と人事評価面談は手法も目的も異なる。人事評価面談では、評価を行う者と評価される者に分かれ、一方的に日ごろの業務についてのフィードバックが行われる。評価を行う者は、フィードバックを行うことで人事評価への納得性と社員のモチベーションを高めようとする。

 1on1では対話型のコミュニケーションを主とするため、人事評価面談のように上司から部下に対して一方的に評価するようなことはない。

「1on1」のメリットと効果

「1on1」を実施することで、次のようなメリットと効果を得られる。

●部下との信頼関係を構築できる
 コミュニケーション不足は、ときに社員の離職を招く看過できない問題だ。かつての日本では、上司と部下が終業後に飲食店でお酒を酌み交わしながら個人的な会話を行う光景が頻繁に見られた。

 しかし、これは現代にはマッチしないコミュニケーション方法だろう。リモートワークが増え、ますます意思疎通が難しくなった今、上司と部下が1対1でお互いの近況を知り、声を掛け合い、話を聞ける「1on1」は貴重なコミュニケーションの場、信頼関係の構築の場といえる。

●部下の成長促進
 単に部下の失敗を指摘するのではなく、どのような過程を経てなぜそれが起こってしまったのかを理解できれば、上司は日ごろの指導に活かせる。

 部下は自分の失敗を上司とともに振り返ることで、自分自身にある課題に気づけるだろう。失敗だけでなく成功体験も共有すれば、絆はより深まる。「失敗も成功も上司と共有できる」と知った部下は、安心して自身の能力・スキルを伸ばせるようになる。

●部下に対する理解の向上
 上司は部下の話に耳を傾けることで、部下が日ごろ何を考えているのか、どのような思いで業務に取り組んでいるのか、あるいは自分に対してどのような感情を抱いているのかを知ることができるだろう。

 互いに仕事をしているだけでは知りえない情報を引き出せるようになれば、部下が何に不満を持ち、不安を抱いているのかを理解でき、業務だけでなく精神面でもフォローできるようになる。

●部下のモチベーション向上
 1対1のミーティングで信頼関係が生まれれば、部下は上司に自身の考えや意見を躊躇なく伝えられるようになる。伝えた意見が業務や待遇に反映されれば、部下は仕事へのモチベーションを高く持てるようになるだろう。「1on1」は、個々の能力をいかんなく発揮できるチームの構築にも役立つのだ。