「人材版伊藤レポート」から今後の人事のあり方を読み解く

 2020年9月、経済産業省は企業のこれからの人材戦略のあり方を説く「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書」を発表しました(※1)。この報告書は、2014年発表の「伊藤レポート」(経済産業省:「『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト」最終報告書の通称)をまとめた一橋大学 経営管理研究科の伊藤邦雄 名誉教授を座長として検討が行われたため、「人材版伊藤レポート」という通称がつけられています。

 この報告書では、新型コロナウイルスの影響やテクノロジーの進化により、新たな仕事の進め方が求められる中で、企業はこれまでの成功体験にとらわれず、人材戦略を大きく変革する必要があるとしています。また、変化の激しい時代に、私たちは「事業が突然なくなる恐れ」があることも体験しました。事業変更を余儀なくされる中では、どんな状況でも対応できる人材の力が重要です。本レポートでは、人材を「人財」ととらえ、人件費を「コスト」ではなく「投資」として、積極的に人的資本を活用する重要性を訴えています。

 さらには、世界的にSDGsやESGといった、社会環境に対する企業の取り組みも注目されています。これからの人事部は、企業の成長を推進するとともに、社会に対して責任を果たす部門になっていくと考えられます。日本でもやっとSDGsの取り組みが本格化してきましたが、世界ではすでに当たり前のこととして行われています。

 来年は、「人財活用」と「社会課題への取り組み」が、人事部に問われる年になるのではないでしょうか。

 次回は、2021年に人事は具体的に何に取り組むべきなのか、実務的視点から解説します。


※1 経済産業省:持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~

著者プロフィール

中野 在人

大手上場メーカーの現役人事担当者。

新卒で国内最大手CATV事業統括会社(株)ジュピターテレコムに入社後、現場経験を経て人事部にて企業理念の策定と推進に携わる。その後、大手上場中堅メーカーの企業理念推進室にて企業理念推進を経験し、人材開発のプロフェッショナルファームである(株)セルムに入社。日本を代表する大手企業のインナーブランディング支援や人材開発支援を行った。現在は某メーカーの人事担当者として日々人事の仕事に汗をかいている。

立命館大学国際関係学部卒業、中央大学ビジネススクール(MBA)修了。

個人で転職メディア「転キャリ」を運営中 http://careeruptenshoku.com/
他に不定期更新で人事系ブログも運営。http://hrgate.jp/