※本記事は新潮社フォーサイトに掲載された「学生リアル取材ドキュメント「怪しいスマホ販売ビジネスを追え!」(上)」を転載したものです。(中)(下)は新潮社フォーサイトでお読みいただけます。
はじめに
これから(上)(中)(下)の3回にわたってお読みいただく記事は、立命館大学国際関係学部白戸ゼミの4回生12人による取材を基にしたルポルタージュである。
学生たちが手分けして取材した内容を、学生代表の木山日菜子(2021年3月卒業予定)が執筆し、私とForesight編集部で校正した。最初にゼミの指導教員として、学生の執筆した記事が『Foresight』に掲載されるに至った経緯を説明させていただきたい。
新聞記者とシンクタンク調査員を経て大学教員となった私は、2019年4月にゼミを開講する際に「ジャーナリズムの実践」をテーマに掲げて学生を募集し、1期生12人が集まった。メディアやジャーナリズムを研究対象にするのではなく、学生が自ら取材テーマを見つけ、取材を体験するためのゼミである。教員である私は取材の方向性、手法、議論の組み立て方などについて適宜助言を与えるが、取材には一切関与しない。
大学の文系学部のゼミでは、文献講読と教室での議論を中心に授業が組み立てられることが少なくないが、本ゼミの学生たちは街へ出て人に会い、話を聞くことに注力してきた。必要があれば文献を渉猟するが、その場合でも可能な限り1次資料を探す。
後に学生の執筆した原稿で詳述するように、取材に当たっては、本職の新聞・テレビ記者よろしく深夜に取材対象者の自宅前に張り込む「夜討ち」を敢行し、取材対象企業の関係者から匿名を条件に組織の実態を聞き出す取材も繰り返し行われた。
このような活動を実践したのは、学生たちを新聞社やテレビ局に就職させるためではない。狙いは別のところにあった。
SNSによって誰もが情報発信できる今日、タイムラインに次々と流れては消える情報の中から何が真実で何が虚偽かを判別することは、若者のみならず誰にとっても容易ではない。その結果、少なからぬ人々が誤った情報を事実と信じ、誤った情報に依拠して自らを「正義」であると確信し、無実の誰かを誹謗中傷する時代となった。
そうした状況の中、取材を通じて失敗と挫折を繰り返すことによって、正確な「事実」を突き止めることがどれほど困難であるかを体感し、自らがSNS等で何かを発信する場合には、「事実」の確定に徹底して慎重を期す社会人になって欲しい──。「ジャーナリズムの実践」と銘打ったゼミの活動には、そんな願いを込めた。
この取り組みを旧知の内木場重人Foresight編集長にお話ししたところ、関心を寄せて下さり、「学生が取材を終えた暁にはForesightで記事を掲載してみてはどうか」という身に余るお話をいただいた。こうして掲載されることになったのが、これからお読みいただく記事である。学生が調べて学生が執筆したものゆえに、突っ込みどころ満載の稚拙な記事ではあるが、「事実」を求めて悪戦苦闘した若者たちの記録として読者にはご寛恕願うしかない。
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