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ニット工場で働くベトナムからの技術実習生(写真:ロイター/アフロ)

(文:出井康博)

 午後10時半、東京都内の定食チェーン店でのアルバイトを終えたベトナム人のシン君(32歳)は、同僚のベトナム人留学生と一緒に店を出た。アパートまでは自転車で10分ほどだが、最寄り駅に向かう同僚に付き合い、自転車を押して歩くことにした。

 ベトナム語での会話を弾ませながら、ひと気のない公園に差し掛かった。ふと前を見ると、制服姿の2人の男が近づいてくる。パトロール中の警官たちだった。

「すみません、自転車の防犯登録を確認させてください」

 声は丁寧だが、警官たちの目つきは鋭い。一瞬怯みながら、シン君は「ハイ」と応じた。

 警官はシン君らに名前を尋ね、在留カードの提示を求めてきた。在留カードは外国人の身分証明書で、常時携帯していなくてはならない。もちろん、シン君も財布に入れて持っていた。

 日本人であれば、自転車が本人のものと確認された時点で、無罪放免となったことだろう。シン君は無灯火で自転車を走らせていたわけでもないのである。

 だが、そこから警官たちによる職務質問が始まった。恐らくシン君たちがベトナム人ではないかと察し、職質する意図があったのだろう。

 シン君はアルバイトをしながら日本語学校に通っている。ただし、カードに記された在留資格は「留学」ではなく「家族滞在」だ。日本人もしくは外国人の配偶者に付与される資格である。その点に関心を抱いた警官が、「奥さんは、日本人?」と尋ねてきた。

「いえ、ベトナム人です」

 続いてアルバイト先や、在籍する日本語学校の住所、さらには日本に入国した際の空港の名前まで質問された。

 シン君は日本に来て1年半が経過し、日本語での簡単な会話はできるようになっている。何とか質問に答えると、警官はシン君の住所をメモした後、「ありがとうございました」と一礼して立ち去った。

 職質は初めての経験だった。シン君の周囲では、こうして道で警官に呼び止められるベトナム人が急に増えているのだという。

「やっぱり、あの事件のせいですね」

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