ニューサウスウェールズ州沖のオーストラリア東部演習場にけるオーストラリア海軍の演習(2020年12月14日、出所:オーストラリア国防省)

(数多 久遠:小説家・軍事評論家)

 2カ月ほど前の10月19日、防衛問題の法的側面に興味を持っている人にとっては、興味深い出来事がありました。

 同日実施された、岸信夫防衛大臣とオーストラリアのリンダ・レイノルズ国防大臣の共同声明において、両大臣は、自衛隊法の“武器等防護”条文を根拠として、自衛隊がオーストラリア軍の警護を行うための調整を始めると発表しました。今まで武器等防護を根拠として自衛隊が警護を行うことにしていたのは、日米同盟を結ぶ米軍に対してだけでした。それをオーストラリア軍に拡大するというのです。

 すわ某新聞や某通信社が反対キャンペーンを始めるのでは、と緊張したのですが、それほど大きな反応はありませんでした。何がどう変わろうとしているのか理解できていないからなのかもしれませんが、逆にこれを歓迎する声も聞こえません。やはり、これがどれほど意義のあることなのか理解できないからでしょう。

 そこで、以下では、この“武器等防護”とは何なのか、そして、それを根拠としてオーストラリア軍を警護することにどんな意味があるのかを解説したいと思います(法律の専門用語はできるだけ避けて、なるべく分かりやすく書いていきます)。なお、引用した法令や記者会見の内容は飛ばしていただいて結構です。理解を助けるために引用しましたが、興味のある方だけお読みください。

自衛隊に武器の使用を可能とさせる「武器等防護」

 武器等防護とは、自衛隊法第95条(正確には95条の1)に規定された自衛隊の権限です。

(自衛隊の武器等の防護のための武器の使用)
第95条  自衛官は、自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備又は液体燃料(以下「武器等」という。)を職務上警護するに当たり、人又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第36条又は第37条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。

 この武器等防護は、自衛隊に武器の使用を可能とさせる数少ない根拠となるものです。特に、平時においてはほぼ唯一とも言えるものです。