(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)
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とうとう軍事企業に指定されたSMIC
米国防総省は2020年12月3日、中国人民解放軍と関係が深い中国企業として、半導体製造専門のファンドリー(受託生産)である中国SMICを指定すると発表した(ロイター、12月4日)。米投資家の株式購入の禁止対象となるほか、同社と米企業の取引も禁止されることになる。
SMICについては、米商務省がすでに9月25日付の書簡で、同社にApplied Materials(AMAT)、Lam Research(以下、Lam)、KLAなど米国製の製造装置を輸出する場合は、同省に申請することを義務化していた(ブルームバーグ、9月27日)。
そのSMICが、とうとう中国人民解放軍の軍事企業に指定された。SMICは、中国が半導体の自給率を向上するための国家政策「中国製造2025」の中核的な半導体メーカーである。そのSMICが軍事企業に指定されたため、半導体の自給率を2020年に40%(推定20%弱で未達)、2025年に70%に向上させるという目標は、ほぼ不可能になった。
これに対してSMICは、ブラックリスト入りを見越して、米製の製造装置を使わずに、2020年中に40nm、2023年までに28nmの量産を計画していた。これらについては、日本と欧州が協力すれば実現できるかもしれないということを本コラムで解説した(「中国製造業を根底から壊す米国のファーウェイ攻撃」、2020年10月3日)。
しかし、SMICが軍事企業に指定されたため、事態はもっと深刻になる。まず、SMICは半導体工場を拡張したり新設する場合、米製の製造装置を入手できない。それだけでなく、現在稼働している工場においても、既存装置のメンテナンスが受けられなくなる。
本稿では、まず、軍事企業に指定されたSMICが、(前掲拙著記事の復習になるが)半導体工場を拡張したり新設することが不可能になることを説明する。その上で、SMICが、現在稼働中の全ての半導体工場が停止する危機に直面していることを論じる。