宇宙空間・サイバー空間・電磁波空間は、海洋や極地などとならんで、各国の発展にとって欠かせない国際公共財であるとともに、民主的な意思決定機能を守ることも民主主義諸国の死活的な利益だからである。
そこで、米国が他の民主主義国家と連携して、さらには既存の国際機関の枠組みもフルに活用して、各種領域における国際規範の形成に動き、それを中国が守らなくてはならない状況に追い込んでいくことが、これからの米中対決に勝つための、有力な一手段となるわけである。
国際規範形成で中国に圧力
少し遠回りしたが、ここでバイデン政権が採る可能性がある、国際協調かつ対中強硬という路線に話を戻そう。
海洋、極地、宇宙、サイバー空間、電磁波空間などの国際公共空間において秩序を維持したり、フェイクニュースなどによって人間の認知活動を恣意的にコントロールしようとする試みを制限したりするため、国際的な規範を形成していくことは、一国でできることではない。
そのためには、共に公共空間の秩序を守ることに利益を感じている国々と連携して、既存の国際機関を活用したり、必要な場合には新たな国際的枠組みを作り出したりしていくことが必要である。
ここに国際協調策と対中強硬策の接点があると言えよう。
バイデン政権が実現した場合の対中強硬策の一つの可能性として、このような国際協調によって、中国が軍民融合の技術力を背景に、平素からハイブリッドな手法で現状変更や権益獲得を狙うのを阻止することが考えられるのである。
もちろん、戦争そのものの性格が、平時と戦時を明確に区別できるような軍隊間の決戦から、平時とも戦時ともつかないグレーゾーンにおいて、新しい領域も活用した多様な手段で目的を達成しようとする多様な戦いにシフトしつつあるという新しい流れは、これまでのトランプ政権下でも無視できるものではなかった。
米軍の中では、陸・海・空に加えて、宇宙・サイバー・電磁波などの新しい領域(ドメイン)のすべてにわたって、マルチ・ドメインの戦いを繰り広げるために、国内の様々な関係機関のみならず、国際機関や外国の軍・関係機関とも連携して作戦を行う「インテグレートされた戦い」の必要性が、近年強調されるようになってきている。
すなわち、軍事的合理性の観点から言えば、米国第一主義を前面に出し、国際機関や同盟国との間で不協和音を生み出してきたトランプ政権の政治姿勢は、むしろこの流れにブレーキをかけていた側面がある。
バイデン政権が生まれた場合には、この動きが一挙に進むかもしれない。