知識がなく、気づかずに「コンプライアンス」違反を犯していることも

 企業が目先の利益を優先させてしまい、コンプライアンス違反を犯してしまうことが多いことは先に述べた。粉飾決算や、従業員に過大な業務を押しつけることなどは、その最たる例と言える。

 気をつけたいのは、当人に知識がなく、気づかずにコンプライアンス違反を犯してしまっている例だ。前述のセクシャルハラスメントやパワーハラスメント、サービス残業などは、この例に当たるだろう。気づかずに放置していると、コンプライアンス違反の状態がその企業で当たり前となってしまう恐れがある。

 さらに、コンプライアンス違反に気づいても、報告や相談ができないという場合もある。これは、職場の雰囲気が原因である場合と、窓口を用意していない場合がある。職場の雰囲気が原因である場合は、前述の過大な業務を押しつける職場や、サービス残業が当たり前という職場に多い。上司が帰宅するまでは職場から離れられない雰囲気があるという職場も少なくはないだろう。

 窓口がなくて相談しようがないという場合は、企業が事前に「コンプライアンス違反の相談はここで受け付けます」と職場で働く労働者全員に周知徹底しなければならない。「上司に相談すれば良いだろう」と言う方もいらっしゃるかもしれないが、相談内容によっては上司が握りつぶして、経営層に報告しない場合がある。やはり、コンプライアンス違反については、利害関係がない相談窓口を用意すべきだろう。

企業全体で「コンプライアンス」を守る体制を作るには?

 企業、そしてそこで働く労働者一人ひとりがコンプライアンスを守るには何が必要だろうか? 大きく分けて「行動規範の策定」、「社内規定で明文化」、「推進部門の整備」、「教育」の4つが挙げられる。以下で詳しく説明しよう。

●どう行動すべきかを明らかに示す

 まずは行動規範の策定だ。これは、企業として本来どう行動すべきかをきちんと決めておくということだ。そして、行動規範を定めるだけでは意味がない。行動規範に従って行動するよう、社内で働く人すべてに周知徹底する必要がある。経営者が率先して呼びかけたり、社内研修を実施して行動規範の意味を説明したりするなどの活動が必要になるだろう。

●細部の解釈の違いが起こらないように明文化

 行動規範は、「本来、どう行動すべきか」と大まかに方針を示すものと言える。前述の「知識がなく、気づかずにコンプライアンス違反を犯していた」例や、細かい解釈の違いでコンプライアンス違反を犯していたなどの場合に備えるために、どのようことをしてはいけないのかを就業規則などの社内規定で細かく定めておく必要もある。社内規定を作成したら、Webサイトなど社内で働く人すべてが簡単に確認できるところに掲載しておこう。

●「コンプライアンス」違反が発生したときに対応する部署を決めておく

 コンプライアンス違反を発見しても、社内のどこに相談したら良いか分からずに、そのままになってしまう例があることは先に述べた。このような場合の相談窓口となり、相談を受けて実態を調査し、経営者に報告する部署を設けておく必要もあるだろう。前述の通り、相談先が上司しかいない場合、内容によっては相談を受けた上司がその内容をそのまま握りつぶしてしまう場合があるからだ。専門の部署を設けて、その部署に義務と権限を持たせれば、相談を受けても握りつぶしてしまうということは起こらない。

●「知らなかった」で済ませないように研修を実施

 働く人がコンプライアンスを守るためにどう行動すべきか、どういうことをしてはいけないのか正しい知識を身に付けることも重要だ。そのためには研修を実施すべきだろう。全員を集めての研修が難しいというときは、eラーニングを活用して、働く人一人ひとりがそれぞれのペースで学習できる環境を作るのも良いだろう。

 前述の通り、コンプライアンス違反のうち相当数が「知らないうちに犯してしまった」ものだ。企業全体が「知らなかった」という状態に陥っている可能性もある。定期的に外部の専門家の監査を受けることも必要だろう。監査で指摘されたことを社内規定で明文化しておくことも忘れないようにしよう。

「コンプライアンス」違反が起これば、企業は売上の損失を被るだけでなく、ステークホルダーからの信頼も簡単に失ってしまう。意図的ではない、従業員の知識不足が引き起こすコンプライアンス違反は、未然に防ぐことができる。「知識さえあれば損害は出なかった」と違反が起きてから後悔しないために、今一度、社内規定の周知やコンプライアンス研修の実施ができているか、社内で見直してみてはいかがだろうか。

著者プロフィール

HRプロ編集部

採用、教育・研修、労務、人事戦略などにおける人事トレンドを発信中。押さえておきたい基本知識から、最新ニュース、対談・インタビューやお役立ち情報・セミナーレポートまで、HRプロならではの視点と情報量でお届けします。