国内総生産(GDP)とは、一定期間内に国内で産み出された付加価値の総額のことを指します。そのため各国の為政者はGDPを引き上げることに躍起になり、そのために様々な政策を打ち出します。それほど現代人の生活に直結しているGDPですが、どのような根拠に基づき、どのような手法で算出されているのかを知る人はごく少数です。

 そして、世界には「そもそもGDPとは本当に信頼のおける経済指標なのか」と、疑問に思っている人もいます。実は筆者もその一人です。

GDPの算出法は正しく社会を表しているのか

 GDPとは、失業率や物価上昇率などといった数値と比較するならば、いくつもの仮定に基づいた推計でしかありません。さらに現在では、GDPが増加しても失業率が増えるという「雇用なき成長」という現象が生じていまする。こうしたことからも、国の経済力を表す指標としてGDPが使用されることに疑念が持たれるのも当然と言えるのです。

 またGDPは、その推計が始まって以来、一貫した方法で算出されてきたわけではありません。経済の現実に応じて推計方法が変わるのは当然ではありますが、単にそれだけではなく、金融部門の比重がどんどんと拡大される方向で推計が進んできているのです。

 例えば銀行は、「金融仲介機関」と呼ばれ、人々から預かったお金を、別の個人や会社に貸付け、預金金利と貸出金利の差額によって生存する機関です。こうした銀行が得る金利収入や手数料収入は、もともとはGDPには含まれていなかったものです。

 つまり、現在の計算方法によるGDPは、本来のGDPよりも過大評価されている可能性が高いと考える研究者も増えてきています。その代表的人物の一人が、国連の経済問題の担当官であるヤコブ・アッサです。

 ここでは、彼の著書『過剰な金融社会』(拙訳、知泉書館)における主張にもとづきながら、GDPの問題点について考えてみたいと思います。