ニュースなどで「タックスヘイブン」という言葉が今では当たり前のように使われるようになりました。日本語に訳せば「租税回避地」となりますが、税金が全くかからない、あるいは著しく低い地域のことを指します。タックスヘイブンを利用して、本来納めるべき税金を納めていない大企業や大金持ちがいるということは、読者の皆さんもご存知のことと思います。

 下に示した【地図1】はタックスヘイブンの地域を表しています。これを見ると、タックスヘイブンとされる地域がカリブ海の島々に集中していることがわかると思います。

【地図1】タックスヘイブン地図(出典:Wikipediaより。https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Tax_havens.svg#file
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 カリブ海には、ケイマン島や英領ヴァージン諸島など、タックスヘイブンとして有名な島々が点在しています。タックスヘイブンは、脱税や租税回避だけでなく、犯罪組織やテロ組織によるマネーロンダリング(不正資金洗浄)の拠点となっているとされており、各国の課税当局や捜査当局から常に監視の目を向けられる存在でもあります。

 そのようなタックスヘイブンが、なぜカリブ海に集まっているのか。その理由を考えてみたいと思います。

砂糖革命

 歴史上、「砂糖革命」と呼ばれる現象がありました。17世紀から19世紀にかけて、新世界にサトウキビ栽培が導入され、砂糖の生産量が大きく増えた現象を指す言葉です。最初はブラジルにサトウキビのプランテーションが形成され砂糖が生産されるようになり、それがブラジルに移住していたイベリア系ユダヤ人(いわゆるセファルディム)によって、カリブ海にも伝えられます。

 このようにして新世界が一気に砂糖生産の中心地になっていきました。17世紀から19世紀にかけてカリブ海地域一帯の砂糖プランテーションに向けて、大勢の黒人奴隷が西アフリカから連れてこられ、彼らがサトウキビを栽培し砂糖を生産、製糖された砂糖を輸出するようになります。

 砂糖の需要が激増した背景には、18世紀にイギリスで大流行した紅茶の存在があります。東インドから大量の茶が輸入されるようになり、その茶に入れられたのが、カリブ海地方、とくにジャマイカ産の砂糖でした。1700〜1809年のあいだにイギリスの一人あたり砂糖消費量は、4ポンドから18ポンドに伸びたとされます。

 1776年にアメリカがイギリスから独立し、イギリスは北米大陸の植民地を失いました。これはイギリスにとって政治的には大きな痛手となりましたが、しかし経済面から見れば、新世界でより重要だったのは、北米大陸ではなく西インド諸島でした。それはもちろん西インド諸島が砂糖の生産拠点だからです。そして、これらの島々がいくつかが後のタックスヘイブンになっていくのです。