テレワークを成功させるためには
事前の入念な準備が不可欠

──具体的にはどのような準備が必要か。

例えばネットワーク環境です。セキュアにアクセスするためにVPN(仮想私設網)が必要だと言われますが、これまで同時に数百人程度しかアクセスしていなかったところに、いきなり数千人がアクセスすれば回線がパンクしてしまいます。かといって設備を増強しようとしても、すぐに工事ができるわけではありません。

 さらに、これだけの人数の社員が自宅で長期間業務を行う場合のセキュリティーをどう担保するか、コロナ対応で初めて検討したという企業も多いのではないでしょうか。一方で、本格導入を視野に、平時から、数十人、数百人と半年ないし1年かけて検証し、準備をしてきた企業もありますから当然その差は歴然です。

 ここでネックになるのが、必要な書類がデジタル化されていない、紙の書類に印鑑を押す必要がある、ネット環境でアクセスできないといった問題で、そのために出社する必要が生じてしまいます。法律上求められているものや、顧客がどうしても紙と印鑑でなければ認めないと言う場合は仕方がないですが、ほとんどは慣行を踏襲しているだけではないでしょうか。であれば、明日からでも変えるべきです。

──「部下の顔が見えないとマネジメントしづらい」を話す管理職もいるが、テレワーク導入に当たり、どのようなコミュニケーションが求められるのか。

 日本企業では、毎日同じ場所に部下も上司も集まり、あうんの呼吸や暗黙の了解で業務を進めてきました。日本のワーカーは優秀なので、上司の指示がなくてもお互いに教えあったり、助け合ったりしてこなしてきました。

 ただ、それに頼ったマネジメントには限界があります。これも、テレワーク導入を機に変えることができます。テレワークでは、メールやチャットなどを使って、逆に部下と上司、あるいは同僚とのやりとりが活発に行なわれるようになるからです。特徴的なのは、そこでのプロセス、すなわち問題が起きたことに対して部下から報告があり、上司がどういう指示を出したのかが全部記録として残ることです。これにより、結果のみならず、そこに至る経緯も評価でき、より精度の高いオペレーションを確立できます。

 これまでは、上司が部下に「頑張れ」と叱咤激励していればよかったのですが、テレワークでは、具体的で明確な指示を出さなければなりません。それは組織の生産性向上に寄与します。

少子高齢化や通勤弱者の課題を
解決し、競争力を高める

──ウィズコロナ時代、日本企業が持続的な成長を果たすためには、人々の働き方や意識はどのように変化すべきか。

 新型コロナウイルスがいつ収束するのかなかなか見通せません。むしろ足元では新規感染者数が増加しており、第2波、第3波も懸念されます。また、コロナだけでなく、今後も自然災害を含め、さまざまなリスクが襲ってくる可能性があります。日本企業にとってさらに深刻なのは、少子高齢化に伴う労働力不足の問題です。そうした課題を、テレワークが解決する期待もあります。

 最近では、東京などの大都市圏ではなく、地方で暮らしたいと考える人も増えています。また、育児中の女性、高齢者、障がい者など、いわゆる通勤弱者の人の中には、優秀な人材も数多く存在します。これらの労働資源を有効に活用することができれば、労働力不足の課題を解決できるだけでなく、競争力のある企業に変えることができるでしょう。

 もちろん、その実現のためには前述したような評価やコミュニケーションのあり方も変える必要がありますが、今から準備を進めることで、他の企業に先んじることができます。ぜひ経営者が率先して取り組んでほしいと願っています。