コロナの影響で経営不振、倒産に陥る企業も増えている。今後、コロナに端を発した世界不況の到来が予測される中で、事業ポートフォリオの見直しや事業モデルの変革は、多くの企業にとって必要不可欠となる。これに伴い、事業再生を意味するターンアラウンドの位置付けも大きく変化しそうだ。ニューノーマル時代のターンアラウンド(事業再生)について、KPMG FASの代表取締役、知野雅彦氏に聞いた。

KPMG FAS 代表取締役 パートナー 知野 雅彦氏

ニューノーマルに合わせて
事業ポートフォリオの見直しが必要

──コロナ倒産に関する報道を目にする機会が増えているが、現状と今後の見通しは。

 コロナの影響による倒産は、件数そのものはまだ限定的ですが、明らかに増加傾向にあります。リーマンショックの際は、当初はあまり企業業績に影響はなかったものの、半年から1年後にさまざまな影響がでました。当時の経験を踏まえ、今回も年末から年明けぐらいから倒産件数が急増するのではないかと懸念しています。

 現状では、航空会社や鉄道会社、ホテル、アパレル・小売店、百貨店、飲食店など、BtoC企業において業績悪化が進み、経営破綻が世界的にも増加しています。ただこれは、企業倒産の第1波だと捉えています。コロナに端を発した世界不況の兆候が見えますし、米中対立など地政学リスクの高まりも相まってグローバル経済に悪影響が広がり、今後BtoB企業にも波及する可能性があります。これが倒産の第2波になり得ると見ています。そうなると倒産件数も増えますし、規模も大型化するのではないでしょうか。

──コロナの影響は長引き、経済はV字回復ではなく、U字回復、L字回復をたどるとの見方が強い。先行き不透明な中で事業を継続し、再び成長軌道を描くには何が必要か。

コロナ危機がいつ終息するかは誰にも分かりません。ただ、いずれにせよコロナ後の世界は従前の世界とは異なります。いわゆるニューノーマル(新常態)では、さまざまな面で消費者の行動が変わりますし、人々の働き方やワーキングスペースの在り方、人事制度なども大きく変化するでしょう。従って、ニューノーマルに合わせて事業ポートフォリオを見直したり、事業モデルを再構築したりする必要があると考えています。

──ターンアラウンド(事業再生)が必要なケースも増えるのではないか。

 ターンアラウンドには2つのレイヤーがあると認識することが重要です。1つは企業体のターンアラウンド、もう1つは事業のターンアラウンドであり、両者を混同しないことです。

 企業は通常、複数の事業を営んでいるので、ある事業で損失が出たとしても、他の事業でそれを補うことができれば、ただちに企業体が危機に陥ることはありません。ただ、この損失が将来に向けた事業投資に関わる損失であれば問題ありませんが、事業が衰退していく、あるいは製品のライフサイクルが衰退期に入ってしまうというような状況での損失があれば、かなり問題であり、即座に対処しなければいけません。

 環境が大きく変わるのであれば、事業モデルや製品をそうした変化に応じて見直す必要があります。これがいわゆる事業のターンアラウンドです。一方、それが無理な場合には、スピード感を持ってその事業を整理・売却し、事業ポートフォリオの適正化を図らなければなりません。これが企業体自体のターンアラウンドです。

例えばソーシャルディスタンスによって、レストランは今までの半分しか客席を使用できないとします。そのままでは損益分岐点を上回らないので、テイクアウトなど何かの仕掛けをして、ビジネスモデルを見直さないといけません。これが事業のターンアラウンドです。これを企業体として見たとき、飲食業は厳しいのでもうやめよう、事業を売却した上で他の事業でやっていこうというのが、企業体のターンアラウンドの一形態になります。

──リーマンショックから10年超が経過し、企業経営者のターンアラウンドに対する見方は変わったのか。

 従来ターンアラウンドは、いわゆる倒産企業、経営不振に直面するような会社の事業立て直しという印象が強かったのですが、今後は、ニューノーマルに合わせた事業モデルの積極的で前向きな捉え直しと認識するべきです。むしろ、それによってさらなる成長機会を獲得するというくらいのポジティブなエネルギーが必要です。過去の悪い部分も含めて全て一新し、活力を取り戻す良い機会だと考えれば、ターンアラウンドは幅広い企業が取るべき策と言えます。