ターンアラウンドに問われるリーダーシップ
コミュニケーション、実行力

──ターンアラウンドはどのようなプロセスで進めるのか。

 まずは、「何が悪いのかを突き止めること」です。そのために外部の力を使うこともありますが、いずれにせよ自社のビジネスを冷静に見つめ直し、客観的に分析しないといけません。分析の手法はさまざまです。競合他社との比較もその一つですし、自社が持つ多様なデータを解析する方法もあります。いずれにしても、まずは企業や事業の価値の源泉やリスクを査定するデューデリジェンス(DD)をきちんと行うことが重要です。

 DDを行うと、事業がうまくいっていない原因がいろいろと浮かび上がってきます。ただ、ターンアラウンドにとって重要なのは、複数の原因の中から、最も根本的な原因を特定することです。そのためには、多少時間がかかっても仕方がありません。綿密にDDを実施することが大切なのです。

根本原因さえ分かってしまえば、解決法は必然的に定まってきます。一つの原因が解決すると、次の原因の解決にも影響を与えるような好循環が生まれてきます。うまく直らないところは、定期的に検証して別の策を講じます。いわゆるPDCAサイクルを回していくというのが、ターンアラウンドのプロセスです。

──ターンアラウンドの成功に必要なポイントは。

 成功させる上で最も重要なのはリーダーシップです。ターンアラウンドをやろうとすると、必ず既得権益を持つ関係者からの妨害に遭います。会社全体で生き残るためにターンアラウンドが必要なのは分かる(総論賛成)が、自分の仕事が影響を受けるのは避けたい(各論反対)というのがその背景です。そのとき、リーダーがよほど強力にリーダーシップを発揮しないと、抵抗勢力を抑えることはできません。

 次に大事なのはコミュニケーションです。ターンアラウンドの局面では、誰もが不安な気持ちになり、ビジネスも不安定になります。その際、なぜターンアラウンドを実施しなければならないのか、また、一時的には仕事のフローが変わったりして、個々人に不利益が生じることもあることが、最終的には全体の利益につながるということを、繰り返し伝えていく必要があります。

 良いリーダーは、しつこいぐらいに自分の考えを説明するものです。特にターンアラウンドの局面では、通常よりもリーダーによる直接的なコミュニケーションが重要になることを強調しておきます。

 もう1つ補足するなら、ターンアラウンドに限らず、経営トップに必要な資質として実行力が挙げられます。やると決めたことはやる。どんなに抵抗されても、これが正しいのだと突き進んでいく力です。もし間違っていたとしても、それを認めて、途中で引き返すことができれば、それはそれでいい。問題なのは、「やるぞ」を言っておきながら、途中で腰砕けになることです。それを見た抵抗勢力は、即座に「ブレた」と判断して反転攻勢に出ますし、そのリーダーには誰もついてこなくなると考えて間違いありません。

変化に適応して生き残るだけでなく
さらなる成長機会の獲得を

──日本の経営者、中でも中堅・中小企業の経営トップに向けてメッセージを。

 コロナに端を発する経営環境の変化は、本当に対応が大変だと思います。産業によって、あるいは企業によって事情は異なりますが、簡単ではないことは間違いありません。一方、この局面をうまく乗り切るためにターンアラウンドがしっかりできれば、単に環境に適応してサバイブするだけではなく、さらなる成長の機会を見つけることができる可能性があります。環境の激変というのは、うまく対応した者により多くの恩恵をもたらすことを、歴史は証明しています。

重要なのは前向きな気持ちです。失われてしまうものをいろいろ惜しんでも仕方がありません。気持ちを切り替え、前向きな気持ちでスピード感を持って、自社の事業をターンアラウンドし、変革していくことが重要です。それが成功したら、コロナの前にあった会社よりも、おそらくもっと強靭な会社になるはずです。今まで出来ていなかったことが出来る機会でもあるはずです。

国際的な組織に所属し、世界各国の同僚とリモート会議をしていて痛感するのですが、日本人がコロナ危機で意気消沈している一方で、欧米系のメンバーは意識の切り替えがものすごく早いです。コロナに関連する後ろ向きの対応はいち早く終わらせて、今はもう明日のことしか考えていないといった様子がうかがえます。分かりやすく表現すれば、狩猟民族系の対応といえるでしょう。獲物がいなくなったら、フィールドを変えればいいという感じです。

われわれ日本人は農耕民族なので、田畑を荒らされて、しばらく呆然としている、といったイメージでしょうか。ただそれは狩猟系の欧米が優れていて、農耕系が劣っているということではありません。慎重かつ多岐にわたって熟慮し、的確に行動に移すなど、日本人の良いところも当然あります。もうしばらくは田畑の前に立ち尽くすのも構わないのですが、そろそろ既存のフィールドを捨てて、新しい可能性を見つけ出す意識がないと、日本人、日本企業は立ち行かなくなるかもしれません。奮起の時が来ているのです。