新型コロナウイルスや天災に限らず、予期せぬ不正・不祥事なども含めた有事の際、企業経営者はどう備え、対応すべきか。クライシスマネジメントの専門家として活躍する有限責任監査法人トーマツの杉山雅彦氏、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の三木 要氏に、そのプロセスと、未曽有の危機をチャンスに変える心構えを聞いた。 

(写真 左:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 パートナー 三木 要氏 右:有限責任監査法人トーマツ  パートナー 杉山 雅彦氏)

新型コロナは「ブラックスワン」 
「対処」「回復」「予防」の順で対応を 

──新型コロナウイルスのパンデミック対応をはじめ、「クライシスマネジメント」は「3つのR」で取り組むべきと提唱しているがそのコンセプトは。 

有限責任監査法人トーマツ  リスクアドバイザリー事業本部  グローバルクライシスマネジメントリーダー  パートナー  杉山 雅彦氏

杉山:「3つのR」とは、「Readiness(予防)」「Response(対処)」「Recovery(回復)」を指します。まずは「予防」で備え、クライシスインシデント(企業経営を脅かす事態)が発生したら、迅速に「対処」する。また、その後通常状態に「回復」するプロセスを実行するというのが骨子です。これら3つを連続的なサイクルと捉え、いったん「回復」したら、また新しいクライシスが起きたときに適切に対応できるよう「予防」措置を講じ、「対処」「回復」を繰り返すイメージです。 

 コロナ禍は終わっていませんが、足元においては、多くの企業が「対処」はひと段落したイメージを持たれているのではないでしょうか。そしてウィズコロナ、アフターコロナを見据えて、「回復」の道筋をどう取るのか試行錯誤されているところかと思います。では、「予防」は手付かずでいいのかというと、そうではありません。第2波、第3波も想定される中、また新たな対応が必要になることを考慮し、「予防」を検討しておくことが必要です。第2波に備え、現在のBCP(事業継続計画)をことが必要になってくると思います。 

三木:「3つのR」は、「予防」「対処」「回復」の順番で並んでいますが、実際にはクライシスが起きる前、今回であればコロナウイルスの感染拡大が起きる前に、「予防」をしていた企業はあったでしょうか。準備のないまま、今回の「ブラックスワン」(あり得ないことのたとえ。極めてまれで想定外の事象が発生し、人々に大きな影響を与えること)に不意を突かれ、付け焼き刃の対応で右往左往している、そんなところではないでしょうか。中堅・中小企業だけでなく、大企業も政府・自治体も大いに混乱しましたし、まだ余波は続いています。 

 「予防」と聞いて、中には「何か準備していたものがあるはずだ」といって、BCPをひっくり返してみた方もいるでしょう。ただ、今回のコロナで必要だったのは予防策であるBCPというよりも、むしろディザスター・リカバリー・プラン(DRP=災害復旧計画)だったのです。BCPは「予防」フェーズですが、DRPは「対処」フェーズのプロセスです。今回のケースはあまりにも想定外であり、固有の事象であったがゆえに準備が及ばなかった。ブラックスワンに対しては、“ジャスト・イン・ケース”で「対処」から始めるしかなかったのが実情であり、まさにDRPが起動するケースだったといえます。 

 いま、企業の経営トップの方々に申し上げたいのは、ひと言でいうと「あわてないでください」ということです。みなさん同じように困っていて、それぞれの環境で「対処」を進めています。そして国や自治体もいろいろな施策を講じています。まずは周囲の動きを見渡すことです。「対処」と並行して「回復」を始めて、その後で「予防」に取り組んでも決して間違いではありません。3つのRは連続したサイクルだからです。