*写真はイメージ

(廣末登・ノンフィクション作家)

 前回の取材では、薬物汚染の第一線で闘っておられる北九州ダルク(https://kitakyu-darc.org/)の堀井宏和代表からお話を伺った。なぜ、このタイミングで薬物なのかと疑問に思う読者の皆様のために、麻薬取締官が警鐘を鳴らす薬物汚染の現状や、若者を蝕む大麻汚染の実態を紹介した。

(参考記事)「私、『生きるため』に覚醒剤続けました」
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60824

ゲートウェイ・ドラッグの先にあるもの

 昨今、大麻を始めとする「ゲートウェイ・ドラッグ」の蔓延は、相当にヤバい状況にあることを日本社会が認識し、早急に対応を検討する必要がある。ゲートウェイ・ドラッグとは、その名の通り入門的な薬物であり、仲間内で手軽に始められる薬物を指す。しかし、それらの常習化は、新たな薬物への欲求を誘発するために軽視することはできない。

 ゲートの先にある新たな薬物とは、たとえば、覚せい剤である。我が国では、2016年から2019年にかけて、覚せい剤の押収量が4年連続で1トンを超えている。しかし、これだけの覚醒剤が押収されても末端販売価格に影響しないのが、日本社会における薬物汚染の現実だ。

 そうした脆弱な土壌に発生したのがコロナ禍である。この未曽有の事態により、会社の倒産、雇止め、解雇によって生じる所属が失われる不安定な状態が生じ、人の日常的な社会的接触を奪いかねない。当然、社会的孤立に伴う不安が高じるから、崖の上に立っている人の足下が崩れ落ちるような状態が生じる可能性が否めないのである。

 コロナ禍のあと、仕事を失ったり、収入が激減して人生設計が狂ったりすることで、薬物に逃避し(覚せい剤だけでなく、大麻、眠剤などの処方薬を含む)、依存する人たちが増加するのではないかと、筆者は大いに危惧している。

 各種薬物やアルコール依存症からの立ち直りを支援する団体のひとつに、ダルク(DARC)という民間組織がある。もし、この記事を読まれた方で、自分が、あるいは、家族や友人に依存症の不安があれば、ぜひ、ダルクの門を叩いて頂きたい。そして、それは、一日でも早いほど効果がある。

ダルクのミーティングのリアル

 筆者は、ダルクの活動実態を知るべく、北九州ダルクのミーティング(集団精神療法)に参加した。

 北九州ダルクは、1997年開所以来、地域社会と協働しながら、多くの薬物乱用者を受け入れてきた。運営スタッフは、北九州ダルクの代表を務める堀井氏を含むスタッフ全員が薬物経験者であることだ。

 ダルクの回復プログラムの冊子の最初のページを開くと、次のように書かれている。

<私たちは、ある期間薬物を使い続けたが、いつの日からかコントロールを失ってしまった。なぜ、そのことが起きたのか分からない。私たちは肉体的にも精神的にも、どんどん悪くなった。薬物のコントロール喪失だけではなく、感情や金銭や生活のコントロールさえできなくなった。

このどん底から立ち上がり、人間性や人生を回復するためには、新しい基礎とターニングポイント(折り返し点)が必要だった。

 ダルクに来て、それを見つけた。アディクトが回復していくダルク・プログラムは三つの基礎(ステップ)からつくられ、三つが一体となって効果がある。

(1)自分がアディクトであり、アディクションに対して無力であることを認める。
(2)自分の力だけでは、使わないこと(回復)できないと知り、私たち自身より上の力の必要性を感じ、信じる。
(3)行動をもって新しい生き方をはじめ、実践して任せる。>

 ここで、注目すべきは、回復プログラムのパンフレットが、冒頭から「一人称」で書かれていることだ。先述したように、北九州ダルクのスタッフは、皆、薬物依存から立ち直った経験者である。このことはとても重要である。

 経験者だから対象者の痛みが分かるし、立ち直りのプロセスをリアルに伝えることができる。ミーティングで話を聞いてみると、ダルクのスタッフはもとより、参加者は様々な「生きづらさ」を誤魔化す、あるいは逃避するために覚醒剤やアルコールに手を出し、乱用に至った実態が見えてくる。