6月の夕刻過ぎ、カサ・バトリョの前で通り過ぎる人々を眺めていた。
子供連れの家族の姿がある。閉じこもっていた時間を取り戻すかのように笑いあう女の子たち。マスクをした老人はベンチに腰掛け昔話に花をさかせている。街路樹の脇に、失った日常の気配が漂っていた。
耳に届いてくるのはカタルーニャ語だ。通常時は観光客で溢れるため、このエリアの公用語は英語か中国語である。しかし現在国境が閉ざされているスペインに観光客はおらず、歩いているのは街の住人だけだ。彼らはどこか誇らしげに、そのアイデンティティを示すかのように街の中心で自分たちの言語を話している。
3カ月ぶりに訪れた愉悦の時間
バルサのユニフォームを着た男が通り過ぎていった。街角でユニフォーム姿を目にするのはいつぶりのことだろう。3カ月間、バルサカラーを見ることはなかった。当然だけれど、みんなそれどころではなかったのだ。
カタルーニャ広場へと歩いていく彼は嬉しそうだった。6月13日、彼と同じようにクローゼットからユニフォームをとりだした人は多かったはずだ。数時間後、3カ月の休止期間を経てバルサがピッチに立つのだ。
スペインにサッカーが戻ってきた。
3月なかばに非常事態が宣言されてからというもの、リーグ戦は中断していた。外出禁止令の最中、サッカーもなく、バルもレストランもすべて閉まっている。約3カ月間、スペイン人は彼らの人生の喜びの大部分を占める、サッカーとバルのはしごを奪われていたのである。そのふたつが同時に戻ってきたこの週末は大きな意味を持っていた。
カサ・バトリョから下ったところにあるバルサの公式ショップが賑わっていた。中に入ると「マスクの位置をもう少し上にあげてください」と言って、女性係員が優しい笑顔でアルコールを手にかけてくれる。